音楽 × 脳科学の融合による研究――西本智実、広島大学特命教授に就任
指揮者・西本智実が広島大学特命教授に就任。11月17日、広島市内の記者会見では、脳科学の研究者たちと連携し、音楽が人の心に及ぼす仕組みを解明する合同研究について解説した。山脇成人(しげと)特任教授と西本智実が共同で、〈音楽と感性脳科学の共創によるこころイノベーションプロジェクト〉と題した研究を始動。
西本は、「音楽は人の心を癒したり、感動させたりする。実践的な演奏活動による人の脳の動きのエビデンス(科学的根拠)をデータ化し、人の体や心に音楽がどのように役に立つかを具体化していきたい」とプロジェクトの意義を示した。山脇特任教授の研究による人の感情と脳の動きを数値化し、可視化する技術と、西本の研究と連携した音楽活動との融合を展開。音楽と脳科学という異分野が融合したプロジェクトが実現する。
音楽分野を越えた多様な活動に挑む西本智実。本年夏、〈サプリメントコンサート ~脳科学が誘う音楽の不思議~〉を全国で開催。演奏とともに医学者による音楽解説、人と音楽の関係を実践的に証明する実験を実施した。西本による音楽と科学の共創の活動は、幼少期の体験が原点だったという。
「77年のアメリカの無人惑星探査機ボイジャー。そこには、銅板レコード『ゴールデンレコード』が搭載されていて、収録された波や雷の音、生物の鳴き声が宇宙に解き放たれた。ああ、ドラえもん時代が来たと思いました」その後、音楽と科学の接点にますます夢中になっていった。
「音楽と科学の歴史を遡ると、元々は同じ古代ギリシャのピタゴラス楽派に辿り着くんです。音楽は楽譜に記録することで後世に伝えられてきました。その2次元的なデータが演奏家によって3次元で表現され、さらに音楽の中で時空を越えることで4次元的な広がりまでも見せる。こうした科学的な技術や発想は音楽表現にとても重要だと思います」
そして、西本の音楽活動の原点は、新しく活動拠点となる広島とも重なる。西本が公式招聘されたヴァチカン国際音楽祭開催の2015年8月、広島市・松井市長と面談。ローマ教皇総代理枢機卿からの原爆投下70年に対する市長宛ての親書を手渡した。その後、サンピエトロ大聖堂におけるローマ法王代理ミサ(世界約30ヵ国中継)では、原爆被害者追悼の演奏とともに平和メッセージを世界に向けて伝えた西本。広島の研究機関で進める音楽 × 脳科学のプロジェクトには、平和への祈念が心底に宿る。記者会見後は松井市長を表敬。広島を起点とした研究が導く人々の幸福と平和について語り合った。