Page 2 / 3 1ページ目から読む

先輩ミュージシャンに食らいつくことが私の〈叩き上げ〉の道筋

――その頃はどのような方と共演なさっていたのですか?

「清水絵理子トリオ+αのような形を取っていたので、いろいろな方と共演させていただけたのですが、特にありがたかったのは、毎週火曜日の山口真文さん(テナーサックス/ソプラノサックス)のセッションに定期的に参加させてもらえるようになったことです。それを契機にして、竹内直さん(テナーサックス)や井上淑彦さん(テナーサックス/ソプラノサックス)、峰厚介さん(テナーサックス/ソプラノサックス)たちのグループでも使っていただけるようになりました」

――ここまでお話を伺って気づいたのですが、清水さんはクラシック音楽の教育は受けていても、ジャズの学校や音楽大学にも行ってらっしゃらないし、ミュージシャンに師事するということもなさっていません。いわゆる〈叩き上げ〉でジャズを学ばれていったのでしょうか?

「そうです。その頃はもう、バークリー(音楽大学)に行って、卒業してから直ぐに第一線で演奏し始めるというのが主流のようでしたけど、私は脇道にそれるようにして、現場で先輩ミュージシャンの皆さんに鍛えられながら学んでいきました」

――どのように鍛えられたのですか?

「皆さんかなりスパルタ方式でしたよ(笑)。〈お前、スウィングしねえな!〉と怒鳴られたり、黙殺されたりというのは日常茶飯事。今ではあり得ないようなやり方です。でも一番キツかったのは、自分の演奏がカッコ悪い、イケてないっていうのが自分でハッキリわかってしまうことでした。ジャズの中にある、自分の魂が解放されるような喜び。それに魅せられて取り組んでいるのに、そういう演奏になかなか辿り着くことができなくて。

それでも、ありがたいことに、そんな私を根気強く使い続けてくれるので、私も必死になって、食らいついていきました。人によっては、〈マイルスのこのアルバムのような感じで〉みたいに指定する方もいらっしゃったので、いろいろな演奏を聴いては、その音をひとつひとつ耳でとって独学で勉強していくということの繰り返し。でもそのうちに今度は少しずつ疑問が湧いてきました。演奏しながら聴こえてくる自分の音に、〈自分が本当に出したい音はこういう音? これが私の音楽なの?〉と思うようになって」

――徐々にオリジナリティーを獲得なさっていったということでしょうか?

「あの時の私は、とにかく一生懸命周りのミュージシャンから求められる演奏に近づけようと無我夢中でやっていただけですけれど。それが私の〈叩き上げ〉の道筋だったのかなと」

 

突発性難聴を乗り越えて発表した初リーダー作

――そして2010年にファーストアルバム『SORA』を発表なさいました。

「そうですね。あのアルバムは初リーダー作ということもありますが、困難を乗り越えて発表することのできた思い出深いアルバムです」

2010年作『SORA』収録曲“SORA”
 

――といいますと?

「アルバム制作することが決まってから突発性難聴になってしまったんです。難聴といっても音が聞こえなくなるわけではなくて、音が化けてしまうヤツです。人の声や時計の秒針の音、すべての音が化けてしまう。ドアを軽くノックするような音も耳元で銅鑼を鳴らされたような大音響で聞こえてしまいますし、楽器の音も上手く聞き取れません。もちろん電車に乗ることもできませんから、すっかり引き籠り状態になってしまいました」

――どれくらいその状態が続いたのですか?

「幸いなことに数か月でなんとか症状が治まって、アルバム制作に戻ることができました。あの頃は、いくつものバンドを掛け持ちして目一杯のスケジュールで仕事をしていましたから、神経が悲鳴をあげたのかもしれません。とにかくじっくり療養に努めました。アルバムタイトル曲の“SORA”は、その頃ずっと頭の中に流れていたメロディーをもとに書き上げたものです」

 

峰さんは異分子を入れてどんどん自分の音楽を変えていこうとする

――その後は、『Afterglow』、加藤真一さん(ベース)との共作『Double axes』をリリースされ、現在は御自身のソロ活動のほかに峰厚介カルテットでも長く活動していらっしゃいますね。

「峰さんと一緒にやるようになったのは約10年前。『SORA』を出すちょっと前くらいからです。ちょうどその頃、峰さんはそれまで続けていたクインテットを解散させ、ソロイストとして数多くのミュージシャンと共演なさっていました。その中のひとりに私がいて、デュオで御一緒したのがきっかけで誘っていただきました。峰さんは大きな影響を与えてくれる存在です」

峰厚介の2019年作『Bamboo Grove』収録曲“Rias Coast”の別テイクの録音風景。ピアノは清水絵理子
 

――どのような点で?

「峰さんのすごいところは、固定観念がなく、常に新しい何かを求めているところ。これくらいのところで、という守りに入ることが全然ないんです。常に攻めている。だから、一緒にやる私たちもブレずに攻めていないと、完全に置いていかれます。〈何かを貰おう〉という姿勢で演奏していると、まったく勝負になりません。

これは後日談なのですが、最初にデュオでやった時に、私のことを〈よくわかんないけど、なんか面白いなコイツ〉と思ったそうです。そういう異分子を自分のバンドの中に入れ、どんどん自分の音楽を変えていこうとする。そういう懐の深さや探求心の強さは峰さんの大きな魅力だと思います」

峰厚介とのデュオライブの映像