2021年9月から7作連続の配信シングルをリリース中の安斉かれん。楽曲ごとに多彩なスタイルを聴かせてくれる今回の連続リリースだが、第3作となる同年12月に発表された“現実カメラ”には、チャーリーXCX(Charli XCX)とダニー・L・ハール(Danny L Harle)が作曲者として参加。ふたりとも2010年代から活動を続け、エキセントリックかつキャッチーなサウンドをメインストリームに押し上げた立役者だ。ふたりが深いかかわりを持つレーベル、PCミュージックが得意とするビビッドな電子音とダンスビートをポップに昇華するスタイルは、いま注目を集めるムーブメント、ハイパーポップのルーツのひとつといわれる。
きらびやかでキャッチーなサウンドにのせて、等身大でリアルとフェイクに戯れる“現実カメラ”。それはあたかも、PCミュージックの美学と自然と共振するような1曲に仕上がっている。このマッチングは意外と思われるかもしれないが、むしろこれまでの活動を振り返れば納得のいくものでもある。TAKU INOUE、Carpainter、KO3が参加した〈Reproduce〉シリーズをはじめ、絶妙に尖った音楽性を味方につけてきた安斉かれんの面目躍如であると同時に、〈新しい安斉かれん〉に挑戦する今回の連続リリースならではの楽曲だ。
そんな安斉かれんに、連続リリースの楽曲を中心に話を訊いてきた。シンガーとして、作詞者として考えていることはもちろん、2020年に公開した本人選曲のプレイリスト〈MUSICK -my favor vol.1-〉でも窺い知ることのできるリスナーとしての横顔にも注目してほしい。リリースごとに表情の違う多様な音楽性を素直に表現に昇華する柔軟さの源が感じられるインタビューとなった。
チャーリーXCXならではの〈きらきら〉が眩しい“現実カメラ”
――現在、7作連続リリースの真っ最中ですが、それぞれジャンルも曲調も違って安斉さんのいろんな側面を感じられる作品になっていると思います。
「ありがとうございます」
――今回、7作連続リリースに挑戦してみていかがですか?
「毎回、〈新しい自分〉を発見できてすごく楽しいです」
――12月にリリースされた“現実カメラ”は、チャーリーXCXとダニー・L・ハールという、いま世界的に活躍しているふたりがコンポーザーとして参加されていてすごく驚きました。完成した楽曲を聴いてみて率直に第一印象はいかがでしたか。
「最初にサウンドを聴いたとき、とっても可愛らしい曲だと思って。それにあった可愛い歌詞にしようと意識しました。本当に〈きらきら!〉という感じの楽曲に仕上がって、とてもうれしいです」
――“現実カメラ”ではご自身で歌詞を書いて歌唱していますが、一番聴いてほしいと思うポイントってどのあたりでしょうか?
「“現実カメラ”はiPhoneの無加工カメラで撮った写真と加工アプリで手を加えた写真、それぞれに写るふたつの自分のギャップに戸惑う女の子を描いている曲です。歌詞に〈あなたのシャッターだけ押しておいてよ〉というところがあるんですけど、〈あなたのシャッター〉っていうのは心だったり目だったりを指していて。写真じゃなくてリアルに会って話したりすることを書いています」
――今回の楽曲で、作詞やボーカルの面で大変だったことはありますか。
「大変だったのは、やっぱりボーカルのパートが多いので、こっちをレコーディングしてこっちをレコーディングして……っていうジグザグに作業をすすめるのがすごく大変でした。ちなみに、最後にカメラのシャッター音が入るのは、私のiPhoneの音だを使ったんですけど、随所にそういう工夫をして全体的に可愛くしてみました」
――今回はボーカルがいままでの楽曲とちょっと違って、高めのトーンのコーラスがたくさん入っていますね。これまでの安斉さんの歌い方と違う表情が聴けたと思います。
「これまではもっとまっすぐ歌うようにしていたと思うんですけど、今回は〈女の子が歌っている〉っていう……こういう言い方もあれですけど。それを意識して、ぺちゃぺちゃした声質で歌うように意識しましたね」
――個人的には、ハイトーンで、さらに歌い上げるみたいなところが特にチャレンジという感じで印象的でした。
「そうですね、本当大変でした(笑)。音が、というよりも息も続かないっていう(笑)」