〈バーサタイル(万能)〉の一言に尽きる俊英ドラマー、それが山田玲である。92年、鳥取県生まれ。前田憲男、秋満義孝、大野俊三、TOKU、大西順子ら上の世代とも、同世代の若手たちとも、海外ミュージシャンとも、率直に音で語らい、ピースフルな音楽の場を成立させてきた技量の持ち主だ。個人的には2019年に東京国際フォーラムホールCで行なわれた〈EAST MEETS WEST〉登場時にサム・ムーア(元サム&デイヴ)のバックで聴かせたタメの利いたビート、つい最近では大田区民プラザで行なわれた〈下丸子JAZZ倶楽部 前田憲男レガシー・ナイト〉で披露したブラッシュワークの妙技に、ことさら感銘を受けた。

その山田玲が、自身のバンド〈Kejime Collective〉によるニューアルバム『Counter Attack』をDays of Delightから発表する。構成メンバーは広瀬未来(トランペット)、高橋知道(テナーサックス)、渡辺翔太(ピアノ)、古木佳祐(ベース)という不動の顔ぶれ。新鮮なアイデアに事欠かないオリジナル曲やカバー曲がずらりと並び、“Georgia On My Mind”に重鎮ギタリスト、渡辺香津美が特別参加しているのも嬉しい。見事、会心作を完成させた山田玲に、新作に関してはもちろん、これまでのキャリア、ドラム奏法、グループ名の由来などについて、ざっくばらんに語ってもらった。

山田玲 Kejime Collective 『Counter Attack』 Days of Delight(2022)

 

ドラマー山田玲の礎をなす音楽的原体験

――まずはバイオグラフィー的なことについてうかがえたらと思います。山田さんが初めて意識した音楽は何ですか?

「ベンチャーズや〈寺内タケシとブルージーンズ〉などですね。親父がコピーバンドをやっていて、その練習についていってたのを覚えています。ジャズに関心を持つようになったのは高校ぐらいのとき。それまでハードロックとかファンクのバンドをやっていたんですけど、フュージョンを知って、その後〈フュージョンよりもっと自由な音楽があるんだ、面白そうだな〉と思ったのがきっかけです」

――初めてドラムを演奏したのは、いつですか?

「覚えてないですが、母親が言うには、朝7時ごろ、保育園に行く前に、とりあえず16ビートを練習していたらしいです。うちにドラムセットがいっぱいあったんですよ。親父が半分コレクターみたいな感じで、親父のバンドの練習場に1台あって、親父の部屋に2台あって、ぼくの部屋に3、4台あって、親父の仕事場の事務所にも1台あって」

――ドラムショップを開けそうなほどすごいです。最初に好きになったドラマーは?

「メル・テイラー、その前にベンチャーズにいたホーウィー・ジョンソンとか。そこからジーン・クルーパやルイ・ベルソンを知ったんです。ロックのプレイヤーもジャズマンに憧れているんですよね」

 

ボーヤとして付いた猪俣猛からの教え

――猪俣猛さんが主宰するRCCドラムスクールに入学したきっかけは?

「鳥取で唯一のドラム教室があって、その講師がRCCドラムスクールとつながりがあったので、RCCでも習うことになりました。当時は年に一回、夏にRCCの生徒が全国から集まる合宿があったんです。ドラマーばかり100人以上、アンサンブル大会やドラムバトルをやるんだけど、そのバトルでぼくが優勝しちゃった。そうしたら猪俣さんが〈おまえ、高校3年生だろ? 来年からどうするんだ?〉と。〈東京に行こうかなと思ってます〉と答えたら、〈出てきたら、まずは俺のとこ来い。俺のボーヤをやれ〉と」

――最近、猪俣さんのアルバム『ファースト・フォース』『セカンド・フォース』(それぞれ80年、81年)のライナーノーツを書くために、集中してプレイを聴き返していました。改めて、猪俣さんはチューニングが美しくてバンドのメンバーも皆イントネーションが良くて、スティックはもちろん、ブラシがめちゃくちゃ素晴らしいと強く感じました。

「ブラシにはものすごくこだわっていると思います。〈ブラシはどこでも練習できるだろ? なのに、なんでみんな練習しないんだ。雑誌ひとつあったら、その上でできるじゃないか〉と猪俣さんが言っていたのを思い出します」

猪俣猛の2008年のライブ映像。曲はソニー・クラーク“Cool Struttin’”
 

――考えてみたら、ブラシは、音もスティックほど大きくないし、スティックより練習の機会を多く持てるかもしれません。

「ブラシはニュアンスが無限に出るんじゃないでしょうか。タッチの微妙な感じとかは、スティックで演奏しているときにもモロに出ると思うんです。スティックのタッチが汚い人がブラシをうまく扱えるとは到底思えない。ブラシは先端がしなるし、柔らかい。ただベタッと鼓面に置くのではなくて、スナップを使う。そうした能力も大事になってくるんですよ」

 

ジャズでもロックでもドラムを叩く基本姿勢は変わらない

――パパ・ジョー・ジョーンズが時計回りにブラシを擦ったり、反対周りにしたり、炎の上の焼き鳥を回転させるようにブラシをクルっと動かして音にニュアンスを加えていたことを思い出します。演奏するときの姿勢に関して、山田さんがとくに心がけていることはありますか?

「体幹は大事にしてますね。体幹だけはしっかりしておきたい。猪俣さんに言われたのは〈野球でボールを投げるときに腰を使うだろ? その感覚でシンバルを叩けばいいんだよ〉ということ。腰に力を入れつつ、ほかは柔軟に、力を抜いて演奏していく」

――基本というものは、時が流れようが、いつになっても変わるものではないと個人的には思っています。山田さんはそれをがっちり身に付けていて、しかも尋常ではない幅広さがある。秋満義孝さんのようなリビングレジェンドから、ポップス系の仕事まで、大変な適応力です。

「何も意識はしていないです。別に叩き分けているわけでもないですし。ただ、ある程度のルールってあるじゃないですか。スウィングにはスウィングのルールがありますし、フュージョンだったらこういう感じのフィルが合うとか、細かいことはありますけど、ドラムを叩く基本姿勢は何も変わらないです。

ジャズとロックでセッティングを変えたり、楽器や叩き方を変えたりするのは、個人的にはよくわかんない。同じ音楽じゃん、一緒じゃんと思っているので。そういえば、ウィル・リーのバンドで1週間演奏して、その何週間後かにクリス・トーマスとレコーディングしたことがあるんですけど……」

――ウィルは歌も歌うエレクトリックベース奏者で、ホレス・シルヴァーのバンドにいたこともありますが、どちらかというとフュージョンとかポップス系のイメージがあります。クリスはアコースティックベースの名手で、ジョシュア・レッドマンやブライアン・ブレイドと共演してきましたね。ある意味、対照的な二人だと思います。

「変わんなかったんですよ。タイムの深さというか、そのふたりの感覚がぼくの中で全然変わらなくて、別にジャズだからとかロックだからということで違いはなかった。いや、もう普通にナチュラルに演奏すればそうなるはずなんだけど、結構みんな考えちゃうから」