Page 2 / 3 1ページ目から読む

1人でも抜けたら全然サウンドが変わっちゃう

――続いて新作『Counter Attack』の話に移ります。グループ〈Kejime Collective〉結成のいきさつを教えていただけますか?

「名古屋のジャズクラブ〈Mr.Kenny’s〉のママから、ぼく名義のセッションかバンドをやってくれと言われたのが初めてですね(2017年)。せっかくなら一緒に演奏してみたい人を呼びたいということで、広瀬未来さん、渡辺翔太さん、古木佳祐さんと普通にスタンダードナンバーのセッションみたいな感じで演奏したらものすごく楽しくて。

最初の一年余りはこの4人だったんだけど、神戸のあるイベントの時に未来さんの紹介で高橋知道さんに入ってもらったことがあって、クインテットでやってみたら、さらに楽しくて。それ以降5人になりました」

『Counter Attack』トレイラー映像

――以来、メンバーの変動もなく今日に至ります。やっぱりこの5人じゃなきゃ、という?

「メンバーの変動がないというのは、そういうことですよね。普段それぞれ違う場所にいても、集まってくる。替えが本当に利かないですね。1人でも抜けたら、全然サウンドが変わっちゃうと思いますよ。だからトラ(代役)は考えられない。

あと、ぼくが思い描くサウンドは、まず演奏者の顔が浮かぶ。このメロディーならトランペットなら未来さんだなとか。もう圧倒的にトランペットがうまいし、人間としてもホスピタリティーがすごい。いろんなことを見て考えてくれる人で、それが演奏にも現れるんですよね」

――やはりDays of Delightから出た広瀬さんのリーダー作『The Golden Mask』にも山田さんは参加していました。その時と『Counter Attack』はリーダーとサイドメンの位置関係が逆になっていますね。

「確かにイニシアチブ的には逆ですけど、演奏するときの気持ちは同じです。未来さんのセッションだからといって、サイドマンであることを特に意識するわけでもないですしね。やりたいことをやらせてもらってるんで」

広瀬未来の2020年作『The Golden Mask』収録曲“The Golden Mask”。ドラムスは山田玲

――ベースの古木佳祐さんは、Kejime Collectiveのメンバー中でも山田さんといちばん長い交友があるとうかがいました。

「もう10年くらいになるんじゃないかな。大野俊三バンドにも誘ってもらってもう5年になります。ぼくが入りたての時は1年に2回ぐらい、まるまる1か月のツアーとかもありました。マネージャーさんの事務所に古木さんとぼくが同居して、ほとんど同棲生活みたいだったこともありますよ(笑)。半分家族みたいな感じです。

お互いのキャラクターがわかっているし、手の内も全部知ってるはずなんですけど、ナアナアにはならないし、全然予定調和しているつもりもない。なのに、すげーユニゾンしちゃったりとか(笑)。楽しいですよ。古木さんはいろんな楽器ができるんです。ピアノもうまいし、ドラムもできるし。普通のベーシストとはアプローチが全然違うんですよね。ソロもメロディアスで、ああいうベーシストはあんまりいないと思います」

――ピアノの渡辺翔太さんとは初めて出会ったのは?

「何かのフェスで会ったのが最初だったと思います。初めて演奏したのは〈Mr. Kenny’s〉だったかな。翔太さんのピアノは、もうぼくの想像を超えたすごい範疇にいます。リズム感、タイムが圧倒的だし」

――高橋知道さんのプレイに関して、山田さんは〈これこそジャズテナーサックスの音なんだ〉と表現しています。

「一緒に演奏していても、どんどんインスピレーションを受けますね。高橋さんと未来さんは音色の相性がとにかくいいし、男気があります。この2人は、神戸でラジオ番組を持ってたりとか、まあ要するに〈バディ〉なんです。リズム隊はけっこう、フロントについていくところがあるでしょ? でもぼくのバンドはそうじゃなくて、リズム隊がとにかくプッシュしまくる。リズムの3人で、前にいる管楽器の2人を押しまくる形です」

 

その場の雰囲気でごく自然に決まるアレンジ

――古木さんの書いた“It’s A Hustle”にはドラムと管楽器の掛け合いがありますが、1回目と2回目で掛け合う小節数が異なったり、タイトル曲の“Counter Attack”にしても、〈後(あと)テーマ〉の提示が終わってもうエンディングかなと思ったら、テナーのアドリブが始まったり。確かに決してテーマで演奏を終わらせる必要はないし、同じ小節数による掛け合いを反復する必要もない。このあたり、相当、力をこめてアレンジしたのではないかと推測するのですが。

「いえ、ごく自然ですね。〈この方がかっこいいんじゃないか〉ぐらいのノリ。ライブと同様、その場の雰囲気です。テーマ→アドリブ→テーマのパターンとか、8小節どうしのソロ交換とか、別にそうしなくてもいいんじゃない?っていう。固定観念というか、そういうのはもういいやみたいな気持ちにはなってるかもしれない」

『Counter Attack』収録曲“Counter Attack”

――このアルバムに入っている曲からは、自分のアドリブソロが終わっても、メンバーがその場を離れて一服している感じがしないんです。どの曲のどこであっても、自分が音を出していないときでも、5人が同じ場にいる印象を受けます。音を出さない時でも、一刻も楽器を手から放してないんだろうな、というような。

「ドラマーがリーダーだからというのもあると思いますよ。フロントの人がリーダーだったら、例えば自分のソロが終わって、次はこうしてみようっていうのが他の奏者に伝えられるじゃないですか。でもドラムはずっと叩いているから、それが難しい。伝えにくいんです」

――マイケル・ブレッカーの楽曲“African Skies”が、こんなアレンジで聴けるとは思いませんでした。この曲を選んだ理由は?

「別にないんですよ。ぼくは曲作りの時に、リフから思いつくんです。この曲に関しては、考えついていたリフから新しいオリジナルを作ろうと思って風呂かなんかでメロディーを歌い始めたら、〈アレ? このフレーズ、なんか聴いたことあるな〉って(笑)。それが“African Skies”と同じだったんです。で、この曲が頭から離れなくなった。イントロのところは最初、スネアのフチを叩いてリズムを出して、ぼく以外の人が手を叩いたりとか。普段のライブとはまた違うアレンジでやろうということで、遊び心を入れました」

――いわゆる古典的なナンバーをとりあげる場合、考えていることはありますか?

「メロディーは崩したくないですね。スタンダードナンバーをすごく崩して演奏する人もいますけど、個人的にはそれだとあまり楽しめない。せっかく美しい曲なのになあ、とか思っちゃう」