現在の世界の困難さを超えて響く八神純子の歌声

 世界が再発見した日本のシティ・ポップ。その最盛期から日本のAORの女王として、音楽シーンの最先端で活躍し続けている八神純子が、新型コロナウイルスの流行する2021年に新しいアルバム『TERRA - here we will stay』をリリースすると共に、オーケストラと共演するコンサート〈PREMIUM SYMPHONIC CONCERT -Wing For The Future-〉を開催した。東京・晴海のトリトン・スクエアにある第一生命ホールで行われたそのコンサートを聴きに行った(2021年12月20日)。

 共演したのは柳澤寿男指揮のバルカン室内管弦楽団。新型コロナウイルスの世界的な感染流行で来日メンバーは9名となり、楽団と縁のある日本人音楽家も加わった編成となったが、トップの席にはバルカン半島からやって来たメンバーが座り、やはりインターナショナルな雰囲気が感じられる。まずバルカン室内管弦楽団ならではと言えるアレクサンダル・ベチリ作曲の“スピリット・オブ・トラディション”からの作品がオーケストラによって演奏された後、八神純子が登場。彼女の代表的作品である“ポーラースター”“みずいろの雨”が続けて歌われると、客席の雰囲気も活気に溢れて来て、アーティストたちと聴き手の一体感が会場を満たして行った。

(株)フォトスタジオアライ
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 聴衆を魅き付けながら歌い続けていく八神だが、その歌声の伸びやかさ、透明なきらめきをずっと維持していることに驚きながら、名曲の数々を楽しんだ。そして2021年にリリースされた“TERRA - here we will stay”では、さらに音楽的な広がり、深さをその表現の中に感じさせ、彼女の音楽に対する姿勢の素晴らしさも実感することになった。

 終演後には、八神、そして巧みな指揮でコンサートをリードした指揮者の柳澤に話を聞くことが出来た。

 「リハーサル、本番を通じて感じたのは、バルカン室内管弦楽団の方々の演奏に〈バネ〉があるということです」と語る八神。「音楽に対する反応の仕方がとても活き活きとしていて、こちらもそれに反応して、さらに今に息づく音楽が生まれて来る感じです」と、コンサートの興奮も冷めやらぬ感じだった。

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 指揮の柳澤はこう話す。「バルカン半島の音楽家たちは、みんなそれぞれが苦労というか苦難を経験している人たちです。それだけに、音楽に対して非常に敏感に反応します。今回でも、リハーサルなどを通して、八神さんの音楽に触れている間に、彼女の人生とか、彼女の音楽の背後にあるものを感じて、それを演奏の中で表現しています。だから音楽的にもかなり密度の濃い演奏になって行くのだと思います」

 八神の新作『TERRA - here we will stay』は彼女のオリジナルとしては第20作目のアルバムとなる。この制作の間、世界は新型コロナウイルスの流行によって大きく変動していた。

 「そういう時代だからこそ、普遍的なものとは何かとか、世界が今、求めているものとは何かと考えざるを得なかった。それがこのアルバム全体を貫いています。今回はオーケストラと一緒に演奏しましたが、様々な編成で『TERRA』を歌っていますし、音楽を通して伝えられるメッセージをこれからも大事にしていきたいです」

 と八神。様々なバックグラウンドを持つアーティストたちの共演のなかに、ひとつの希望を見出す。そんなコンサートでもあった。

 


LIVE INFORMATION
東京公演

2021年12月20日(月)東京・晴海 第一生命ホール
開演:19:00
出演:八神純子
指揮&管弦楽:栁澤寿男 指揮/バルカン室内管弦楽団特別交響楽団