その偉大さは問答無用のアンセムたちと栄光の歴史が証明する――世界を踊らせてきたフランツ・フェルディナンドが堂々のベスト・ヒット・コレクションを完成!

 いま〈ベスト・アルバム〉というものが必要なのかどうか。プレイリストの利便性が尊ばれる時代にあって、かつてのベスト盤が備えていたインスタントな有難味が相対的に薄れているのは確かだろう。だからこそ、そうした利便性とは異なる意味で外向きのコレクションにコレクション以上の価値を見つけられるアーティストというのは稀有な存在に思えてくるわけだが、その点でフランツ・フェルディナンドは申し分のない名前だと言っていい。長きに渡って遠心力のある高水準なヒットと共にバンドの求心力と品格を築き上げ、華々しく栄光の道を歩んできた彼らが初のベスト・アルバム『Hits To The Head』を完成した。ここには選りすぐられた18の代表曲に加えて新曲が2曲(+ボーナス・トラック)がギュッとひしめいている。

FRANZ FERDINAND 『Hits To The Head』 Domino/BEAT(2022)

 同郷グラスゴーの大学の同期だったアレックス・カプラノス(ヴォーカル/ギター/キーボード)とボブ・ハーディ(ベース)が出会い、ニック・マッカーシー(ギター/キーボード/ヴォーカル)とポール・トムソン(ドラムス)を加えて2001年に結成されたフランツ・フェルディナンド。第一次世界大戦のきっかけとなるサラエボ事件で暗殺されたオーストリア皇太子から取ったバンド名というのも最高に鼻持ちならないが、〈女の子を踊らせる音楽をやる〉という彼らの美意識はそんな気取った姿勢にもぴったりだった。ドミノと契約して2003年のデビュー・シングル“Darts Of Pleasure”で脚光を浴びると、曲の途中でテンポ・チェンジする構成も話題になったセカンド・シングル“Take Me Out”が全英3位まで浮上する爆発的なヒットとなる。2004年のファースト・アルバム『Franz Ferdinand』ではブリット・アワードとマーキュリープライズ、NMEアワードという英国の3大音楽賞を同時に受賞(新人としては史上初)するという快挙を達成、USでも成功を収めて翌年のグラミーにノミネートもされた。

 『Lodger』期のデヴィッド・ボウイやトーキング・ヘッズ、スパークスらさまざまな先人の姿も連想させる彼らのユニークな特徴としては、ニューウェイヴ~ポスト・パンク的なダンス・ロックへのアプローチを、アクの強い歌とソリッドな演奏によって、同時代のダンス・ミュージックと同じ目線で展開したことにある。そして、それをスタイリッシュかつ超シンプルに突き詰めることで強度を増し、曲ごとのキャッチーなポイントを極めて明快に提示しているのだ。2005年のセカンド・アルバム『You Could Have It So Much Better』は全英1位/全米8位を獲得し、ここから生まれた“Do You Want To”の広がりも相まって彼らの人気が一時的なものではないことは証明された。

 そのブレない曲の良さ、快感原則に忠実な芯の部分は、ダン・キャリーと共同制作した3作目『Tonight: Franz Ferdinand』(2009年)でも、ジョー・ゴッダードやトッド・テリエらを交えた意欲的な4作目『Right Thoughts, Right Words, Right Action』(2013年)でも変わらない。ただ、曲作りの面でも歌唱面でも〈らしさ〉の一端を担ったニックが2016年に脱退したことは大きな転機となり、翌年には元1990sのディーノ・バルドー(ギター)とジュリアン・コリー(キーボード/ギター)の2名が加入。役割を再編して歌唱面でも厚みを増したバンドは、フィリップ・ズダールをプロデューサーに迎えた野心的な5作目『Always Ascending』(2018年)にて見事に新生した姿を見せつけている。

 今回の『Hits To The Head』を控えた2021年10月にはポールが脱退を発表。後任のドラマーとしてオードリー・テートが加入したばかりだが、彼女を迎えた最新型フランツの仕上がり具合は、スチュアート・プライスを共同プロデューサーに迎えた今回収録の新曲“Billy Goodbye”と“Curious”にて早速確かめることができる。そうした流れも反映しつつキャッチーな名曲だけを遠慮なく詰め込んだ『Hits To The Head』は、まさにベスト盤らしいベスト盤だ。彼らの楽曲が備えた圧倒的に強度の高いポップネスを体感してほしい。

 

フランツ・フェルディナンドの作品。
左から、2004年作『Franz Ferdinand』、2005年作『You Could Have It So Much Better』、2009年作『Tonight: Franz Ferdinand』、2013年作『Right Thoughts, Right Words, Right Action』、2018年作『Always Ascending』(すべてDomino)

 

左から、FFSの2015年作『FFS』(Domino)、2014年のコンピ『Late Night Tales: Franz Ferdinand』(Night Time Stories)、BNQTの2017年作『Volume 1』(Dualtone)