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The Queen’s Head “Your God Owes You Money”

天野「また南ロンドンからおもしろいバンドが登場してきました。5人組のクイーンズ・ヘッドを紹介しましょう。ブラットプルーフ・ボム(The Bulletproof Bomb)というバンドが前身にあたるようなのですが、2019年にいまのバンドに生まれ変わった模様。同年に“RUDETOY”という楽曲を発表して以降、久しくリリースはしていなかったのですが、今年に入ってシングル“The Queen‘s Head”を発表。そして今回の“Your God Owes You Money”は、プロデューサーのダン・キャリー(Dan Carey)が運営するUKインディーの最重要レーベル、スピーディー・ワンダーグラウンド(Speedy Wunderground)からのリリースです」

田中「正直なところ、前身バンドはもちろん、これ以前の楽曲はノーマークだったのですが、“Your God Owes You Money”には完全にノックアウトされました! カウベルの音が耳を引くパーカッシブな4つ打ちのビートとポストパンキッシュなボーカル&ギターサウンド……と書くと〈よくある感じか〉と思われそうですが、彼らは楽曲の構造とグルーヴの面でかなりダンスミュージック的。途中で出てくるシンセのフレーズや、ロボ声調のボーカルエフェクトなど多彩なアイデアが実に効いています。あと、ボーカリストが2人いることもほかにない魅力となっていますね。この“Your God Owes You Money”、ラプチャーの“House Of Jealous Lovers”(2002年)以降もっとも衝撃的なハウス × パンクの産み落としたレコードと言えるのではないでしょうか。7月にリリースされる7インチは絶対にゲットすべきでしょう! ホントは12インチでほしい1曲ですけどね」

 

Sun’s Signature “Golden Air”

田中「コクトー・ツインズのエリザベス・フレイザーといえば、2021年にワンオートリックス・ポイント・ネヴァー“Tales From The Trash Stratum”のニューバージョンに参加して話題になりましたよね。そんな彼女が今回、私生活のパートナーでもあるデーモン・リース(Damon Reece)とサンズ・シグネチャーというデュオを結成して、パルチザン(Partisan)からデビューEP『Sun’s Signature』を6月18日(土)の〈Record Store Day〉に先行リリースします。この“Golden Air”は、同作からのファーストシングルです」

天野「すごく良い曲で驚きました。ゆったりとしたアンビエント的な導入にビートが加わっていって、天上から降り注ぐエリザベス・フレイザーの歌声が舞い踊り、ドラマティックなロックアンサンブルへと開かれていく展開が、とにかく素晴らしいです。サイケデリックなフランジャーの使い方とか、ギターのうねうねした弾き方とか、スピリチュアライズドなんかを思わせる陶酔的で神聖な雰囲気すらあって、圧倒的ですね。EPは、どんな作品になっているのでしょうか?」

 

Chlöe “Treat Me”

田中「98年、米アトランタ生まれのシンガー、クロイことクロイ・エリザベス・ベイリー(Chloe Elizabeth Bailey)。妹のハリーとのR&Bデュオ、クロイ&ハリー(Chloe x Halle)の一人として知られていますよね。そんな彼女は、2021年9月にシングル“Have Mercy”でソロデビュー。この“Treat Me”は、セカンドシングルになります」

天野TT・ジ・アーティスト&ユニーク3によるジャージークラブ“Off The Chain”(2018年)を引用した“Have Mercy”に続いて、この“Treat Me”も特定のジャンルや時代を思い起こさせるプロダクションです。というのも、ババ・スパークスのパーティーヒット“Ms. New Booty”(2005年)をサンプリングしていて、かなりクランクっぽいんですよね。クランクや2000年代の南部ヒップホップと90sヒップホップソウルの融合というか……。過去と現在が衒いなく並列になっているこの感覚は、かなりイマっぽい。クロイ&ハリーよりもセクシーで挑発的なクロイの攻めの姿勢、かっこいいと思います。ソロデビューアルバムはほぼ完成しているようなので、期待しています!」