トム・コール

6人目のメンバー ダン・キャリーと作った〈孤独〉なサウンド

――プロデューサーのダン・キャリーとの共同作業はデビューアルバムの『Dogrel』から3作連続となりますが、今回のプロダクションやレコーディングに関してはダンとの間でどんな会話やアイデアの共有がありましたか? これまでの2枚のアルバムとの違いや変化があれば教えてください。

コナー「というか、デモの段階でかなり自分達で作り込んでいたから、実際に仕上がった作品とデモとは基本そんな大差ないんだよね。もちろん、ダンの手が入ったことで、はるかにクォリティーの高いプロの音に仕上がっているのはあるけど、アイデア的なところでは曲にしろサウンドにしろ、ダンが入る前からだいたいあんな感じで存在はしてたんだよ。

でも何だろう……たしかにダン独特の、既にあるものをさらに拡張してくれるというか、ダンのひと捻りというか……あれを何と形容していいんだか……」

トム「うちのバンドのサウンドにある種のレイヤーというか、深みを出してくれているよね。うちのバンドが作った一つ一つの音にダンのペダルボードという強烈なカンフル剤が注入されることで、機能性をマックスに高めてくれるような(笑)。自分達が作ったデモの下にいい感じの台座を作ってくれるみたいな。もはや6人目のメンバーみたいなものだよ。すべての要素をまとめてくれる繋ぎ役というか、ダンがいるおかげで全体がしまるんだよ。

それと今回、唯一今までと違っているところがあるとしたら、ダンの家でレコーディングしてないってことくらいだよ。最初の2枚はダンの自宅のスタジオでレコーディングしているんだけど、すごくいい感じでアットホームな雰囲気で、自分の家みたいにくつろげるし、長い時間を過ごしてるから愛着もある。ただ、今回はイギリスの郊外に広いスタジオを借りてそこでレコーディングしているんだ。それも今回の音に影響しているのかもしれない。サウンドの細かいディテールのところまでいつも以上に詰めていけたので、音に厚みとか広がりが出てるというか」

コナー「だだっ広い空間で思いっきり演奏することができたから、いつもより豪快でビッグなサウンドになっている。ダンのスタジオの中で、お互いの距離が近くて親密な感じもそれはそれで味わいがあるけど、今回それとは違う環境も試してみたかった。アルバム自体が全体的に孤独というテーマを扱っていることもあり……ロンドンに暮らすアイルランド人としての感覚だったりとかね。そういう意味では今回の環境はパーフェクトだったと思うよ。

そうした曲を完全に人里かけ離れた農場みたいな場所で、しかもパンデミックっていう特殊な状況下にレコーディングしているっていうシチュエーションそのものがシュールすぎて……たまに朝起きてゾンビ映画の『28日後…』の世界にでも迷い込んだ気分になるっていうか(笑)。丘の向こう側からいつなんどき得体の知れない何かが襲ってきてもおかしくないような殺風景な風景と心理状態で、それが今回のアルバムの曲に必要されてたダークなムードを捉えるのに確実に役に立ったよ(笑)」

 

アルバムの中心線を定めた“Jackie Down The Line”

――制作上でブレイクスルーになった曲はありましたか?

コナー「とりあえず、最初に書いた曲で言えば“In ár gCroíthe go deo”じゃなかったっけ? あれってアルバムの中では結構前に書いた曲で、ロンドンに移る前の2020年にダブリンで書いたんじゃなかったかな。

ただ、その頃はまだアルバムの方向性とか一切考えていない時期で……でも個人的には“Jackie Down The Line”かなあ」

トム「あー、そうだね」

『Skinty Fia』収録曲“Jackie Down The Line”

コナー「あの曲がやっぱり決定打だったよ。今言ったようにアルバムの方向性とかを何も考えないで色々手をつけてて、アルバムに入っていないのも含めて全部で20曲くらい書いてたからね。

それで他の曲のブリッジを作るためにジャムをしてて、休憩中にトムの叩くドラムに合わせて自分がベースを2コード弾いたところで、グリアン(・チャッテン、ボーカル)が〈ちょっと待った、今のマジよかったんだけど!〉って反応して。グリアンが〈今から即興でボーカルを作る〉ってなったところで、カルロス(・オコンネル、ギター)とカーリーが煙草休憩から戻ってきて、〈うわ、いつの間にこんなすごいことになってんの?〉みたいな。それで元々は別の曲のブリッジになる予定だったラインから“Jackie Down The Line”を書き上げたんだ。

あのとき〈あー、今回のアルバムはこういう方向に行けってことね〉ってのが見え始めてきたような感じで、この曲を中心に残りの曲を組んでいけばいんだ、と」

トム「今回はとにかく制作期間が長かったこともあって、下手すると2枚組になりそうな勢いで、しかもものすごくアグレッシブな曲から、伝統的なアイルランド歌曲みたいな曲もあって、あっちこっちに飛んでたんだけど、“Jackie Down The Line”ができたことで中心線が定まってきたみたいな」