(左から)コナー・ディーガン3世、トム・コール、カルロス・オコンネル、グリアン・チャッテン、コナー・カーリー

2017年にアイルランドのダブリンで結成されたポストパンクバンド、フォンテインズD.C.。鋭いロックアンサンブルと独自のリリシズムが凝縮されたデビューアルバム『Dogrel』を2019年にリリースして高い評価を受けた後、国内外で支持を広げ、いまやアイルランドを代表する新たなロックアイコンに成長を遂げたバンドだと言えるだろう。そんな彼らが、待望のサードアルバム『Skinty Fia』を2022年4月22日(金)にリリースする。さらに、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’22〉での初来日も控えている。勢いの止まらないバンドのトム・コール(ドラムス)とコナー・ディーガン3世(ベース)に、新作についてじっくりと訊いた。 *Mikiki編集部

FONTAINES D.C. 『Skinty Fia』 Partisan/BIG NOTHING(2022)

 

普段の生活が奪われた無力感と奇妙な自由さから生まれたアルバム

――今回の『Skinty Fia』の曲作りはこれまでと異なり、パンデミックの影響を受けてメンバー各自が自宅でデモを作成するところからスタートしたそうですね。

トム・コール「最初の3か月ぐらいは各自でアイデアを温めつつ、いろいろ実験しつつみたいな感じで、その期間が持てたことはほんとによかったよ。再びダブリンでメンバー全員が集まれる状況になったときには山ほどアイデアがあって、それを全員でしらみ潰しに一つ一つ実践に移していった感じで。いざレコーディングって段階では30とか40のアイデアの候補があって、そこからロンドンに移動してまた3か月くらい毎日9時5時みたいな感じで作業できたのもよかった。長い間そんな機会は持てなかったし、すごく新鮮で贅沢な時間だった。セカンドアルバム(2020年作『A Hero’s Death』)はツアー先やギグの合間に作ってたから、いつもよりじっくり曲を向き合うことができたんだ」

――そうした様々なアイデアを具体化して個々の楽曲、アルバムという形にまとめ上げていく過程で見えてきたサウンドの方向性、コンセプトはどういったものだったのでしょうか?

コナー・ディーガン3世「一貫したポリシーとしてあるのは、ライブで曲を演奏できる曲ってこと。スタジオの外でも再現可能かどうかっていう、そこは今までもずっと一貫してるし、そうじゃないことにはあえて手を出さないっていう方針なんで。

とはいえ、今回はバンド史上最多ってくらいデモを作ってるし、時間的に余裕があったこともあって、普段の自分達だったら絶対にやらなかっただろうおかしなことやり始めたりとかもあった。裏で相当ヘンなことやってたり……例えば“Skinty Fia”は、ソフトウェアのLogicを使って作ってるんだよ。Logicでジャムで作った音をぶった切りにしてたりしてさ。そうしたアプローチを解禁したことで、よりインストゥルメンタル的な部分で広がりが出てるのかもね」

『Skinty Fia』収録曲“Skinty Fia”

――なるほど。

トム「それと言うまでもなく、ものすごくダークな時期を経験してきたわけで、それがどうしたって音にも影響してるよね。無力感というか、テンションが低いまま低空飛行でとりあえず前に進んでいくしかないような……。普段通りの生活が一切奪われている一方で、奇妙に自由を与えられてたような期間で。ツアーには出れなくても、毎日リハーサルルームに籠って音を出すことはできて……それが退屈だったとか不満だったとかじゃなく、音楽を作ることができて素晴らしかったんだけど、日々平坦でのっぺりとしてたというか。

それと、自分が場違いのところにいるような気分にもなったし。毎朝地下鉄に乗ってリハーサルルームに通うんだけど、電車の中も駅構内もガラガラで人がいなくて、まるで仕事のために外出してるのは世界中で自分達だけなんじゃないかって気分になるような。しかも、自分達はサラリーマンじゃなくてバンドなのに(笑)、立場が逆転しているみたいで。そういうおかしなねじれ構造というか、アイロニーの連鎖みたいなものが今回のアルバムの雰囲気にも出てきてるんだろうね」