(左から)コナー・ディーガン3世、トム・コール、カルロス・オコンネル、グリアン・チャッテン、コナー・カーリー

2017年にアイルランドのダブリンで結成されたポストパンクバンド、フォンテインズD.C.。鋭いロックアンサンブルと独自のリリシズムが凝縮されたデビューアルバム『Dogrel』を2019年にリリースして高い評価を受けた後、国内外で支持を広げ、いまやアイルランドを代表する新たなロックアイコンに成長を遂げたバンドだと言えるだろう。そんな彼らが、待望のサードアルバム『Skinty Fia』を2022年4月22日(金)にリリースする。さらに、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’22〉での初来日も控えている。勢いの止まらないバンドのトム・コール(ドラムス)とコナー・ディーガン3世(ベース)に、新作についてじっくりと訊いた。 *Mikiki編集部

FONTAINES D.C. 『Skinty Fia』 Partisan/BIG NOTHING(2022)

 

普段の生活が奪われた無力感と奇妙な自由さから生まれたアルバム

――今回の『Skinty Fia』の曲作りはこれまでと異なり、パンデミックの影響を受けてメンバー各自が自宅でデモを作成するところからスタートしたそうですね。

トム・コール「最初の3か月ぐらいは各自でアイデアを温めつつ、いろいろ実験しつつみたいな感じで、その期間が持てたことはほんとによかったよ。再びダブリンでメンバー全員が集まれる状況になったときには山ほどアイデアがあって、それを全員でしらみ潰しに一つ一つ実践に移していった感じで。いざレコーディングって段階では30とか40のアイデアの候補があって、そこからロンドンに移動してまた3か月くらい毎日9時5時みたいな感じで作業できたのもよかった。長い間そんな機会は持てなかったし、すごく新鮮で贅沢な時間だった。セカンドアルバム(2020年作『A Hero’s Death』)はツアー先やギグの合間に作ってたから、いつもよりじっくり曲を向き合うことができたんだ」

――そうした様々なアイデアを具体化して個々の楽曲、アルバムという形にまとめ上げていく過程で見えてきたサウンドの方向性、コンセプトはどういったものだったのでしょうか?

コナー・ディーガン3世「一貫したポリシーとしてあるのは、ライブで曲を演奏できる曲ってこと。スタジオの外でも再現可能かどうかっていう、そこは今までもずっと一貫してるし、そうじゃないことにはあえて手を出さないっていう方針なんで。

とはいえ、今回はバンド史上最多ってくらいデモを作ってるし、時間的に余裕があったこともあって、普段の自分達だったら絶対にやらなかっただろうおかしなことやり始めたりとかもあった。裏で相当ヘンなことやってたり……例えば“Skinty Fia”は、ソフトウェアのLogicを使って作ってるんだよ。Logicでジャムで作った音をぶった切りにしてたりしてさ。そうしたアプローチを解禁したことで、よりインストゥルメンタル的な部分で広がりが出てるのかもね」

『Skinty Fia』収録曲“Skinty Fia”

――なるほど。

トム「それと言うまでもなく、ものすごくダークな時期を経験してきたわけで、それがどうしたって音にも影響してるよね。無力感というか、テンションが低いまま低空飛行でとりあえず前に進んでいくしかないような……。普段通りの生活が一切奪われている一方で、奇妙に自由を与えられてたような期間で。ツアーには出れなくても、毎日リハーサルルームに籠って音を出すことはできて……それが退屈だったとか不満だったとかじゃなく、音楽を作ることができて素晴らしかったんだけど、日々平坦でのっぺりとしてたというか。

それと、自分が場違いのところにいるような気分にもなったし。毎朝地下鉄に乗ってリハーサルルームに通うんだけど、電車の中も駅構内もガラガラで人がいなくて、まるで仕事のために外出してるのは世界中で自分達だけなんじゃないかって気分になるような。しかも、自分達はサラリーマンじゃなくてバンドなのに(笑)、立場が逆転しているみたいで。そういうおかしなねじれ構造というか、アイロニーの連鎖みたいなものが今回のアルバムの雰囲気にも出てきてるんだろうね」

 

トム・コール

6人目のメンバー ダン・キャリーと作った〈孤独〉なサウンド

――プロデューサーのダン・キャリーとの共同作業はデビューアルバムの『Dogrel』から3作連続となりますが、今回のプロダクションやレコーディングに関してはダンとの間でどんな会話やアイデアの共有がありましたか? これまでの2枚のアルバムとの違いや変化があれば教えてください。

コナー「というか、デモの段階でかなり自分達で作り込んでいたから、実際に仕上がった作品とデモとは基本そんな大差ないんだよね。もちろん、ダンの手が入ったことで、はるかにクォリティーの高いプロの音に仕上がっているのはあるけど、アイデア的なところでは曲にしろサウンドにしろ、ダンが入る前からだいたいあんな感じで存在はしてたんだよ。

でも何だろう……たしかにダン独特の、既にあるものをさらに拡張してくれるというか、ダンのひと捻りというか……あれを何と形容していいんだか……」

トム「うちのバンドのサウンドにある種のレイヤーというか、深みを出してくれているよね。うちのバンドが作った一つ一つの音にダンのペダルボードという強烈なカンフル剤が注入されることで、機能性をマックスに高めてくれるような(笑)。自分達が作ったデモの下にいい感じの台座を作ってくれるみたいな。もはや6人目のメンバーみたいなものだよ。すべての要素をまとめてくれる繋ぎ役というか、ダンがいるおかげで全体がしまるんだよ。

それと今回、唯一今までと違っているところがあるとしたら、ダンの家でレコーディングしてないってことくらいだよ。最初の2枚はダンの自宅のスタジオでレコーディングしているんだけど、すごくいい感じでアットホームな雰囲気で、自分の家みたいにくつろげるし、長い時間を過ごしてるから愛着もある。ただ、今回はイギリスの郊外に広いスタジオを借りてそこでレコーディングしているんだ。それも今回の音に影響しているのかもしれない。サウンドの細かいディテールのところまでいつも以上に詰めていけたので、音に厚みとか広がりが出てるというか」

コナー「だだっ広い空間で思いっきり演奏することができたから、いつもより豪快でビッグなサウンドになっている。ダンのスタジオの中で、お互いの距離が近くて親密な感じもそれはそれで味わいがあるけど、今回それとは違う環境も試してみたかった。アルバム自体が全体的に孤独というテーマを扱っていることもあり……ロンドンに暮らすアイルランド人としての感覚だったりとかね。そういう意味では今回の環境はパーフェクトだったと思うよ。

そうした曲を完全に人里かけ離れた農場みたいな場所で、しかもパンデミックっていう特殊な状況下にレコーディングしているっていうシチュエーションそのものがシュールすぎて……たまに朝起きてゾンビ映画の『28日後…』の世界にでも迷い込んだ気分になるっていうか(笑)。丘の向こう側からいつなんどき得体の知れない何かが襲ってきてもおかしくないような殺風景な風景と心理状態で、それが今回のアルバムの曲に必要されてたダークなムードを捉えるのに確実に役に立ったよ(笑)」

 

アルバムの中心線を定めた“Jackie Down The Line”

――制作上でブレイクスルーになった曲はありましたか?

コナー「とりあえず、最初に書いた曲で言えば“In ár gCroíthe go deo”じゃなかったっけ? あれってアルバムの中では結構前に書いた曲で、ロンドンに移る前の2020年にダブリンで書いたんじゃなかったかな。

ただ、その頃はまだアルバムの方向性とか一切考えていない時期で……でも個人的には“Jackie Down The Line”かなあ」

トム「あー、そうだね」

『Skinty Fia』収録曲“Jackie Down The Line”

コナー「あの曲がやっぱり決定打だったよ。今言ったようにアルバムの方向性とかを何も考えないで色々手をつけてて、アルバムに入っていないのも含めて全部で20曲くらい書いてたからね。

それで他の曲のブリッジを作るためにジャムをしてて、休憩中にトムの叩くドラムに合わせて自分がベースを2コード弾いたところで、グリアン(・チャッテン、ボーカル)が〈ちょっと待った、今のマジよかったんだけど!〉って反応して。グリアンが〈今から即興でボーカルを作る〉ってなったところで、カルロス(・オコンネル、ギター)とカーリーが煙草休憩から戻ってきて、〈うわ、いつの間にこんなすごいことになってんの?〉みたいな。それで元々は別の曲のブリッジになる予定だったラインから“Jackie Down The Line”を書き上げたんだ。

あのとき〈あー、今回のアルバムはこういう方向に行けってことね〉ってのが見え始めてきたような感じで、この曲を中心に残りの曲を組んでいけばいんだ、と」

トム「今回はとにかく制作期間が長かったこともあって、下手すると2枚組になりそうな勢いで、しかもものすごくアグレッシブな曲から、伝統的なアイルランド歌曲みたいな曲もあって、あっちこっちに飛んでたんだけど、“Jackie Down The Line”ができたことで中心線が定まってきたみたいな」

 

コナー・ディーガン3世

懐の深い質感と一体感を表現したベース

――前作ではサウンド面の変化として、テクスチュアルな音の広がりをたたえたギターのトーンが印象的でしたが、今作では太くて重い質感を増したベースラインに耳を奪われました。個人的に“How Cold Love Is”や“Bloomsday”を聴いてジャー・ウォブルを連想した場面もあったのですが。

コナー「まずベースについての質問されること自体滅多にないんですごく光栄で(笑)。

前作に関しては、あえて広陵とした殺風景なサウンドにしたかったんだ。ガリガリで骨と皮だけみたいな。それでベースにしても飾り気のないシンプルなジャズベースを使って、あえて孤高で禁欲的にしていた。

ただ、今回は思いっきりフルな感じで、ノリとしてはバンドがいざステージに登場!みたいな……今まさにそういった状況なわけで、またみんなで集まってステージで一緒に音を鳴らせる状況になっているわけだから。それで今回はより太い音の出るプレシジョンベースを使って、より懐の深い質感を出していったんだよね。その効果が活かされてると思うよ。

それとDIを通さずに直アンプに切り替えたりして。直アンプだと全体的な音が録れるから、いい感じの音の混ざり具合になって、それが今までにない感触を与えてくれている。

それと曲のテンポってところでも、昔だったらあえて明るいサウンドを持ってきて一つ一つの音がハッキリ主張するようにしていたであろうハイテンポの曲ほど、実はああいうフルオンな感じのサウンドが映える気がして。逆にテンポを落としてときにも、ビート的な役割を少し離れて、暖かみのある篭ったような音になってるのが、いい感じの雰囲気を醸し出してたり……要するに、今回は一体感みたいなものを出したかったんだ。『A Hero’s Death』のときは、いちいち突っかかっていくような、ベースでどこまで実験できるのか試してみたかったんだけど、今回は完全に曲に同化して溶け込んでいるような雰囲気にしたかったんだ。

ちなみにジャー・ウォブルのことは知らない(笑)」

 

プライマル・スクリーム、デス・イン・ヴェガス、ダンスミュージック……『Skinty Fia』のリファレンス

――ギターのカーリーは今作のリファレンスとしてプライマル・スクリームの『XTRMNTR』(2000年)と同作のプロデュースを務めたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズを挙げていましたが、お2人の場合、何か具体的に挙げることができるものはありますか?

トム「そうだね、今回のアルバムを作る上で『XTRMNTR』の存在はデカかったし、間違いなく影響を受けてるよ。あとカルロスがデス・イン・ヴェガスにめっちゃハマってて、『The Contino Sessions』(99年)とかは相当聴きまくってたから、それにもすごく影響を受けている。

プライマル・スクリームの2000年作『XTRMNTR』収録曲“Kill All Hippies”

デス・イン・ヴェガスの99年作『The Contino Sessions』収録曲“Dirge”

個人的にはダンスミュージックにハマってて、90年代のドラムンベースとかレイヴミュージックを聴きまくってた。その頃はちょうどコロナのせいで外に出て行って踊るとか一切できなかったせいで、その孤独の反動としてそっち系の音に流れていったのかもね。とにかくゴールディーだのロニ・サイズだのを聴きまくっていた時期だった。自分の中では今回その2つが一番影響として大きいかなあ……少なくとも今回自分のドラムにものすごく影響してる。ああいったエレクトロニックミュージック直球のビートやドライブ感をあえてロックンロールの文脈の中に落とし込むっていうのが、すごく面白い試みだと思ったし。それは今回のアルバムの曲作りにも影響してるんじゃないかな」

――前作でも“Love Is The Main Thing”など、テクノやダンスミュージックっぽい音作り、ダブやクラウトロックの影響が感じられる楽曲がありましたが、とくにリズム/ビートのプロダクションについて今回ポイントを置いていたことがあれば教えてください。

トム「とりあえず家でずっとダンスミュージック的なドラムを叩いていたんだけど、ものすごく技が要るっていうか、今までやった中で一番テクニックを要することで。ただ、家に籠ってドラムを叩く時間は山ほどあったんでね(笑)。なんか妙にああいう感じのドラムに惹かれるんだよね。

君が今言ったように前作でも“Love Is The Main Thing”とかにすでにその兆候はあったし、“A Lucid Dream”にあるようなブレイクビーツ的なエレクトロニックミュージックの手法でどんどん引きずり込まれていくような感覚が快感なんだよね。今回はそれをもうちょっと全面的にアレンジに取り入れてみたかったというか、少なくともやってみるだけの価値があったんじゃないかと。今までにやったことのない試みではあるしね」

2020年作『A Hero's Death』収録曲“Love Is The Main Thing”“A Lucid Dream”

――ちなみに前作は、『Dogrel』のツアーバンの中で聴いていたリー・ヘイズルウッドやブロードキャスト、ビーチ・ボーイズの悲しい音楽や心にしみるハーモニーに触発されたと話していましたが、今回もそうした自分たちのイマジネーションを刺激したり、進むべき方向へと促してくれたサウンドトラックはありましたか?

コナー「みんなそれぞれ違うものを聴いていて、それが全部今回のアルバムの土台になっている。自分に関して言えば、ピクシーズとかをすごく聴いてたし。自分の今のベーススタイルとかも、キム・ディールのベースからの影響が大きかったり。あとはニルヴァーナとか、トムも言ったプライマル・スクリームの『XTRMNTR』とかロニ・サイズとか、そのへんが全部一緒くたになって今回の音に現れている感じだよ。あとシネイド・オコナーとかも」

 

ロンドンで向き合ったアイルランド人というアイデンティティー

――今回の『Skinty Fia』というアルバム・タイトルは、トムの大叔母が使っていた言い回しから取られたものだと聞きました。アルバムには同じタイトルの曲も収録されていますが、この〈Skinty Fia〉は、今回のアルバムの、あるいは今のあなた達のどんなフィーリングや考えを象徴しているタイトルだと説明できますか?

コナー「自分達にとってすごく特別な言葉なんだ。もともとトムの大叔母さんが子供の頃から完全にアイルランド語の環境の中で育っていて、ある年齢になるまで英語を話したことがないってくらい筋金入りのアイルランド語ネイティブだったんだよね。その叔母さんが罵り言葉みたいなノリで〈Skinty Fia〉って口癖として使ってたんだけど、この言葉の直訳自体は〈鹿の天罰〉で。

そうしたものが何か、失われつつあるものを象徴しているような気がして……アイルランド語自体も失われつつあるわけで。それとトムと叔母さんとの関係性だったりとかさ。トムの頭の中では叔母さんとの思い出があの言葉と結びついているわけで、それってすごく美しいよなあって。もはや消えつつあるアイルランド言語であり、伝統的文化を大切な人との思い出と関連づけて残していくって、なんてロマンティックな記録の残し方だろうと思って」

――ええ。

コナー「それとこの言葉の元の意味が〈鹿の天罰〉っていうのもすごく面白いと思って。鹿はアイルランドの国を象徴する動物なんだ。かつてアイルランドの古来の巨大な赤鹿が存在していたんだけど、在来種的としては何百年も前に絶滅してて。

それでこの絶滅した赤鹿が今回のアルバムのテーマを象徴しているような気がして……つまり、自分達の中にあるアイルランド人としてのアイデンティティーについて。とくにアイルランドを離れてイギリスに渡るにあたって、自分のアイデンティティーの中に生じた葛藤だったり……アイルランドって島国だから、各人がどんなに違いを抱えているとしても、アイルランド人であるってことで全体として一つの絆で繋がってるって共通意識がどこかにあるんだよ。それがイギリスなりロンドンなりに渡った途端、アイルランド人であることが絆ではなくて、むしろ疎外される要因になる。そうすると自分の中でのアイルランド人であるという意識が、それまでとはまったく違う意味合いを帯びてくる。

それを今回、自分達なりに消化して突き詰めてみたかった。そのためには自分達の中でのアイルランド人的な面にどうしても向き合わざるをえなかったし、それが自分自身にとって必要な作業だったんだよ。自分の中で絶対に失いたくなないものは何なのか、逆に何を手放していきたいのか、自分の中で美化してでも留めておきたいものは、逆にこのまま薄れて消えてしまったほうがいいと思えるものは何なのか――今回のアルバムを通して突き詰めて考えることができたことは自分達にとってものすごく大きかった」

――現在、メンバーの多くはロンドンで生活されているそうですが、そうした生活環境の変化、あるいはここ数年で一気に訪れたバンドを取り巻く環境の変化は、その〈アイルランド人としてのアイデンティティー〉にどんな変化や影響を及ぼしたと感じていますか?

トム「なんか、おかしな逆転現象みたいなことが起きてるっていうのはあるよ。アイルランドからロンドンに移るって、少なくとも過去100年以上に渡って何百万人ものアイルランド人が辿ってきた道筋なわけで、もはや伝統といえるくらい昔から脈々と受け継がれているパターンで。

自分もロンドンに移ってしばらくは、地元にいるときよりもかえってアイルランド人らしいというか、それを誇らしげに掲げている自分もいたりして。ロンドンに移ってから最初の何か月間はアイルランド移民についての『The Paddy Camps: The Irish Of Lowell, 1821-61(Brian C. Mitchell著:19世紀のアメリカで、アイルランドからの労働移民が、蔑まれ搾取されていく過酷な環境の中で逆境を乗り越えて、自分達の誇りを取り戻す様子を描いた著書)って本を読んで、そこに自分を重ね合わせていったりとかもあって、自分はつくづくアイルランド人なんだってことをさらに強く意識するようになったり。それは自分のアイデンティティーを保っていく上で必要な作業だったし、そこにすがっていた部分もあったと思うんだよね。そりゃ、何か月かしたらさすがにロンドンでの生活にも馴れていったけど、イギリスやロンドンでは自分がアイルランド人であるってことがアイデンティティーの大きな部分を占めていくようになるし、否応なしにそれを意識させられることが多いからさ」

 

実験的でサイケでイっちゃってる“Nabokov”、相当キテるリズムの“I Love You”

――歌詞の大半はグリアンが書いたものですが、今回の収録曲の中で、アルバム制作時や今の気分に一番フィットしていると感じられる曲、自分の心情を代弁している曲を挙げるとするなら、どの曲になりますか?

トム「良い質問だね。でも、毎週変わるから。今週はラストの“Nabokov”だね。すごく実験的でサイケでイっちゃってる感じとか、最後フェードアウェイしていく感じとか、すごく好きでさ。あれが自分の中でのお気に入り……とはいえ、あくまでも今週の気分だけど(笑)」

コナー「わかる、週単位どころか日によって変わる。でも、“Nabokov”は、自分的にも大アリ。その路線だと、今日の気分は“I Love You”かも」

トム「わかるわ、それもマジでアリ(笑)」

『Skinty Fia』収録曲“I Love You”

コナー「あの曲って途中でいきなりポルカみたいな展開が入るじゃん、4拍子からいきなり2拍子に変わって。しかも、シレっと何事もなかったかのように。作っているときは全然意識してなかったけど、先週それに気づいて、よくよく考えたらあれって相当キテるよね(笑)」

トム「うわ、たしかに(笑)」

コナー「それで最初の流れから、いきなりビートがズタズタっと割り込んできて、〈♪虐殺と中途半端なプライドを売りにして!〉とか逆ギレみたいな展開が始まって。〈え、お前ら、いきなり何?〉的な、しかも、お客さんがそれにちゃんとついてきてるのがすごい(笑)。自棄クソなノリでお客さんの前に出たら、逆になぜか〈いいね〉って言ってもらえたみたいな」

トム「途中でビートが暴走し出すってやつね(笑)。実際、あの曲はライブで演奏してて楽しいんだよね。めっちゃ共感してもらっているみたいで、演奏しててもものすごい手応えを感じる」

 

成長を続けるUKシーンとの関係、ジャンルを問わず結びつくアイルランドシーンへの思い

――現在バンドはロンドンを拠点に活動されているわけですが、ロンドンといえば近年、新しい世代のバンドシーンが活気を帯びています。それこそプロデューサーのダン・キャリーはブラック・ミディやスクイッドを手がけるなどシーンの中心的存在とも言えるわけですが、そうしたロンドンやイギリスのバンドシーンに刺激を受けたりインスパイアされる部分もありますか?

トム「うん、すごくいい感じだと思うし、シーンとしてもかなり強力だよね。うちのバンドも、ブラック・ミディだのスクイッドだのシェイムだのロンドン出身のバンドと初期の頃に同じフェスやライブに出させてもらった縁でその括りに入れられてたり……って、決してイヤな感じで言ってるんじゃなくて、自分達も少なからず関わらせてもらって光栄というか。

自分達もまだシングルを1、2枚しか出してない時代に今言ったバンドの聖地であるウィンドミルでもライブをやらせてもらったり、ちょうどその周辺がにぎやかになり始めた頃で、すごくいい感じだったんだよね。それを繋いでくれたのがプロデューサーのダンで、ダンが今言ったバンド全員を親分的にまとめているみたいな。

2018年のライブ動画。会場は英ロンドン、ブリクストンのウィンドミル

自分達と同じ時期にあの周辺にいたバンドが、今アルバムが2枚目とか3枚目とかで、自分達と同じペースで成長してきてるのを見ると感慨深いというか、ほっこりした気持ちになるし。すごくいい感じのコミュニティーができてるよね。今新しいバンドがどんどん出てきて新たな波ができてるんだろうけど、ちょうど2018年頃の最初の第一波に、自分達も少なからず関わってたっていうのは、すごく特別な経験になったし誇りに思っていいような」

コナー「うん、それはほんと自慢できるよね」

――一方、あなたがたや、あるいはギラ・バンド(Gilla Band、元ガール・バンド)の登場をきっかけに、アイルランドのロックシーンも近年活況を呈しています。トムは先日Far Outのインタヴュー記事でビッグ・ピッグ(Biig Piig)を賞賛していましたが、この状況をどう見ていますか?

コナー「いや、こっちもかなり強力だよ。ブレイク寸前のバンドがゴロゴロいて、これからどうなっていくのがマジ楽しみだよね。今年ヨーロッパ、アメリカと一緒にサポートでまわってくれているジャスト・マスタード(Just Mustard)なんかも絶対に来るから!

ジャスト・マスタードの2022年作『Heart Under』収録曲“Mirrors”

あとはインヘイラー(Inhaler)とかは今絶好調で飛ばしまくってるし……すごくいいのは、アイルランドのシーンってバンド同士がお互いにサポートし合っているところだよ。お互いに面倒み合って支え合っていこうって空気が普通にあってさ。ちょうど自分達が最初の頃にギラ・バンドとか地元の先輩達からすごくサポートしてもらったみたいな流れがずっと続いている」

インヘイラーの2021年作『It Won’t Always Be Like This』収録曲“My Honest Face”

トム「あとアイルランドのシーンの何がいいかって、ジャンルとかスタイルでの棲み分けがないところだよ。さっきのアイルランド人としてのアイデンティティーって話にも通じるけど、同じアイルランド人っていうだけで、とくにロンドンに出てきてるアイルランド人同士の横の結びつきがものすごく強くてさ。だからビッグ・ピッグとか、自分達と全然違う音楽をやってる連中とも普通に交流してるし。ロックだから、ヒップホップだからっていう棲み分けがなくて、全員が仲間みたい感じで繋がってて、それは本当にアイルランドの音楽シーンならではの特別なことだと思うよ」

ビッグ・ピッグの2021年のEP『The Sky Is Bleeding』収録曲“Lavender”

 

ダブリンの仲間達や風景が心の中にある

――『Skinty Fia』はパンデミックの最中に制作されました。そして今、新しい世紀に入ってからかつてない政治的な混乱、軍事的な緊張の中でリリースされることになります。今作に限らずフォンテインズの音楽では、常に〈場所〉がテーマとして描かれていて、それは自分たちの居場所だったり故郷、逃げたり帰ってくることができる〈home〉をめぐる物語であると感じているのですが、今作を聴いたリスナーやファンにはどんなメッセージを受け止めて欲しいですか? あるいは、どんなきっかけになってもらえたら嬉しいですか?

トム「何だろう……でもたしかに、自分達の曲はどれも〈場所〉を舞台にしているって意見には同意。自分達の書いた物語から何を受け止めるかは聴く人次第だとは思うけど」

コナー「ただ、自分が思っているのは、最初のアルバムはある特定の場所を舞台にして、そこをロマンティックなものとして美化していて、それがすなわちダブリンだったという。

セカンドアルバムはそこから引き剥がされて、それまで自分達の日常からも生活していた土地からも引き離されて、家族にも地元の友達にも会えない中で、全然知らない土地にポツンと置かれたような感覚で。

今回の3枚目は、その2枚のアルバムを繋いで、どうにか自分の中で折り合いをつけようとしてるような。

今では地元を離れて、帰りたいときにいつでも帰れる状況ではないかもしれないけど、それでも自分が自分でいられるように……どこにいても自分を見失わないように……自分にとっての大切な場所の一部を常に自分の心の中に留めて持ち歩いていけるように、世界中のどこに行っても自分はアイルランドと繋がっているんだっていうね。今でもダブリンの仲間達や風景が自分の心の中にあって、決して失われたりしないんだよ。どんなに地元から離れていても自分がアイルランド人であることには変わりないし、アイルランドっていうのは土地だけじゃなくて、自分の心の中の一部でもある。だから、世界中どこにでも連れていけることができる……それが結局、今回のアルバム全体を通して自分達なりに確認しようとしてることなんじゃないかな。どこにいても自分の中で失われない場所があるっていう、その自覚があるだけでも、自分の心の中での大きな拠り所になっていくはずで。

それはアイルランド人に限らず、例えばアメリカで暮らしてる日本人にだって応用できると思うんだよ。もし日本を離れることになったとしても、自分が好きなときに日本と繋がることができる。もし自分がそう望んでるのならね。本当にそうなんだよ」

 


RELEASE INFORMATION

FONTAINES D.C. 『Skinty Fia』 Partisan/BIG NOTHING(2022)

リリース日:2022年4月22日(金)
品番:PTKF3016-2J
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST
1. In ár gCroíthe go deo
2. Big Shot
3. How Cold Love Is
4. Jackie Down The Line
5. Bloomsday
6. Roman Holiday
7. The Couple Across The Way
8. Skinty Fia
9. I Love You
10. Nabokov

 

LIVE INFORMATION
FUJI ROCK FESTIVAL ’22

2022年7月29日(金)、30日(土)、31日(日)新潟・湯沢 苗場スキー場
※フォンテインズD.C.は7月31日(日)に出演
https://www.fujirockfestival.com/

 


PROFILE: FONTAINES D.C.
フォンテインズD.C.はアイルランドのダブリン出身のポストパンクバンドだ。メンバーはカルロス・オコンネル(ギター)、コナー・カーリー(ギター)、コナー・ディーガン3世(ベース)、グリアン・チャッテン(ボーカル)、トム・コール(ドラムス)。5人がダブリンのミュージックカレッジで出会い、バンドはスタートした。2019年4月、デビューアルバム『Dogrel』をリリース。アルバムはNME(5/5)、The Guardian(5/5)、Pitchfork(8.0/10)と各メディアで高い評価を獲得。UKチャートの9位、アイルランドチャートの4位を記録し、ツアーは軒並みソールドアウト。Rolling Stone誌は〈我々のお気に入りの新しいパンクバンド〉とバンドを絶賛。「The Tonight Show With Jimmy Fallon」にも出演し、アルバムはラフ・トレードとBBC 6 Musicの年間ベストアルバムの1位を獲得。2019年のマーキュリー・プライズにもノミネートされた。2020年7月にはセカンドアルバム『A Hero’s Death』をリリース。アルバムはUKチャートの2位(1位はテイラー・スウィフト)、アイルランドチャートの2位を獲得。アルバムは多くのメディアで年間ベストアルバムの1枚に選ばれ、第63回グラミー賞の最優秀ロックアルバムにもノミネートされた。また、2021年4月、バンドはブリット・アワードの〈インターナショナルグループ〉にもノミネートされた。2022年3月にはNMEアワーズで〈最優秀バンド・イン・ザ・ワールド〉を獲得。2022年4月22日には待望のサードアルバム『Skinty Fia』をリリースする。