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多様な創作の成果

 その例としてまず挙がったのが、〈暖炉〉からイメージを広げたという“残像”。生ハープのエレガントな調べとファルセット交じりの繊細な歌い口、それらを淡く包む透明感あるアンビエンスがたまらなく美しい一曲だ。

 「この曲は、三人で球をパスし合うごとにテーマもアレンジもどんどん変わっていっておもしろかったですね。最初はギターのソロで、ゆったりと温かい感じの曲にしてたんですよ。で、ササマリがトラックを付けてちょっと豪華になったと思ったら、たなかがすごく暗い歌メロを入れてきたんですよね」(Ichika)。

 「演歌みたいなやつね」(たなか)。

 「そこからもう一回僕がアレンジするってなったとき、もうハープを足してしまおうとめちゃめちゃ弾きまくって。あと、今回はペースも数曲自分で弾いていて、“残像”ではサビの2拍のところでオケが消えて、ベースのスラップが前に出るようにしてみたり、“天国”ではDiosならではのファンキーな生感や揺れを残したくて、ベースをあえて最後に録ったり。ワンフレーズずつ確認しながら弾いていて、気合が入ってます」(Ichika)。

 Ichikaのギターを発端とする楽曲はまだまだ続く。「サビメロは三人で作っていて。各々らしさが入ってるので、わかる人が聴いたら誰がどの部分かわかると思う」(ササノ)という軽快な生音エレクトロニカ“Bloom”、「サビ終わりのギターがすごく好きなんですよ。森の奥の深いところで無数のバネが跳ね回ってるみたいなイメージで。歌詞はそこから動きの拡散性の話、波の話と連想して書きました」(たなか)という“断面”、そして、悲壮感漂うギターとピアノのミニマルなフレーズに〈夏特有の焦燥感〉を重ねたという“Misery”。自身との対峙を綴った言葉が多く見られる本作のなかでも、この曲の詞は特に重いものだろう。

 「夏って何か、焦りが生まれがちじゃないですか? 僕、部活に入ってなかったんですけど、夏休みになって同級生は何かをしているのに自分はゴロゴロしてていいのか?……みたいな。そういう気持ちに駆られていたからっていう説がありますね(笑)。“Misery”は雪山で自死するってことを示唆してるんですけど、その後、うだるような暑さのなかで溶け切って、雪解けの頃に発見されるっていう……暗っ(笑)! でも、この頃はガチで暗いものが好きな時期だったんですよね」(たなか)。