コラム

エマニュエル・パユ(Emmanuel Pahud)がモンタルベッティ、マヌリ、デスプラらの新作で旅に誘う渾身の無伴奏リサイタル

〈エマニュエル・パユ SOLO Vol.3〉

©Denis Felix

テレマンを寄港地としながら同時代音楽の大海原をめぐる、渾身の無伴奏。

 もはや恒例行事。東京オペラシティ コンサートホールでの無伴奏リサイタルは、同ホールの音響に盤石の信頼を寄せるパユにとっても、これが3度目となる。

 プログラムはまさに彼の独擅場だ。テレマンの間に置かれた現代作品は、恩師オーレル・ニコレゆかりのブーレーズを除き、すべてパユに捧げられたもの。モードの世界でいえば〈パユ最新コレクション〉である。そんな新作が1回限りのショーで消えてしまわず、ゲンダイオンガクの世界では貴重きわまりない再演の場を見出すあたりが、彼の凄さと偉さだ。

 たとえばエリック・モンタルベッティの“メメント・エマヌエレ”。やはりパユのために筆をとった協奏曲“メメント・ウィーウェレ”(2019)の素材に基づき、その協奏曲に霊感を与えた彫刻の作者アントワーヌ・ポンセへのオマージュとして書き上げた無伴奏曲は、2020年10月にウィーンで初演後、ベルリン、フィレンツェ、南仏のサロン・ド・プロヴァンスで披露されてきた。ラテン語の常套句を用いて、他ならぬパユの名を“記憶せよ”とタイトルに記した曲が、次は東京で鳴り響く。

 フィリップ・マヌリの新作も、他ならぬ東京オペラシティと関係が深い。マヌリをテーマ作曲家とする〈コンポージアム2019〉で演奏された、同ホールの共同委嘱作にあたるフルート協奏曲“サッカード”(2018年にパユが世界初演)。その内容を凝縮したと作曲者自身が語る無伴奏曲は、サミュエル・ベケットが残した最後の散文のタイトルを標題に掲げている。かたやミカエル・ジャレルの作品は、パユがCDに録音したフルート協奏曲“…静寂の時…”と書式面で類似性の多い姉妹作。1人の特別な笛吹きのおかげで、まるで芋づる式に重要なレパートリーが誕生していくのですね。

 映画音楽の巨匠アレクサンドル・デスプラが、パユが参加する自作自演アルバムのために書き下ろした“エアラインズ”は、世界を飛びまわる演奏家のイメージに〈歌(エア)の線〉を重ねたタイトルどおり、旋律的な美観と現代的な技巧性が共存。斯界で人気のショーピースとなること必至か。

 こんな演目の並ぶステージを航海になぞらえるなら、変幻自在な演奏効果を伴う同時代作品はスリリングな体験に満ちた大海原。そしてテレマンは安息の場となる寄港地。しかしその港町も、未知なる音響現象をくぐり抜けた耳と目には、今までとは何かしら異なった姿で映る……。そんな旅を聴き手と共有するべくパユは願っているのだ。渾身の無伴奏を通じて。

 


LIVE INFORMATION
エマニュエル・パユ SOLO Vol.3
2022年7月11日(月)東京・初台 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
開演:19:00
出演:エマニュエル・パユ(フルート)

■曲目
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第3番 ロ短調
ブーレーズ:メモリアル(1985)
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第4番 変ロ長調
モンタルベッティ:Memento Emmanuaile(2019)
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第8番 ホ短調
マヌリ:なおのうごめき(2020)
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第9番 ホ長調
デスプラ:エアラインズ(2018)
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第11番 ト長調
ジャレル:点は、万物の始原であり…(2020)
テレマン:無伴奏フルートのための幻想曲第12番 ト短調

https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=15020

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