今、本当に作りたいものを――デスプラがフルートの第一人者パユと作る、演奏会のための意欲作

 映画音楽の巨匠、アレクサンドル・デスプラの新譜は、彼自身の指揮のもと、フルートの第一人者エマニュエル・パユ、そしてフランス国立放送管弦楽団によって演奏された、2018年12月のパリでのコンサートライブ録音だ。

EMMANUEL PAHUD,ALEXANDRE DESPLAT 『エマニュエル・パユ/シェイプ・オブ・ウォーター~デスプラ作品集』 Warner Classics(2020)

 まず、フルートと管弦楽用に編曲された映画音楽には、冒頭の「シェイプ・オブ・ウォーター」に始まり、そして「真珠の耳飾りの少女」や「グランド・ブダペスト・ホテル」、「ラスト、コーション」など、彼の代表作が並ぶ。馴染みのあるメロディを一聴するや、奏者の息遣いとライブ特有の緊張感はもちろんのこと、より自由な音量コントロールが、サントラに慣れた耳に新鮮に聴こえる。映像作品の〈尺〉に最適化された映画音楽にはない、生身の音楽の良さがある。また今回編曲の手が加えられ、楽器割り当ての変化や各声部の音量バランスの変化など、洗練された音世界が違った形で蘇るのを発見するのは愉しい。

 今作に収録されたのは映画音楽だけでない。演奏会用に作曲された、フルートのための協奏交響曲“ペレアスとメリザンド”と、フルート独奏のための“エアラインズ”などがある。彼のメイン楽器でもあるフルートの作曲が、パユとの綿密なやりとりによって高められている。例えば、“ペレアス~”(ドビュッシーのそれではないことに注意)ではフルートとオケの力関係が拮抗するなか、フルートに超絶技巧が要求され、優美なメロディの作曲家というイメージが覆るくらい、〈攻めた〉器楽的な発想が見られる。また、パユによって「十分に芸術的だが、練習曲にもふさわしい」と指摘された“エアラインズ”は、フルートの技巧性と芸術表現のバランスよく追求された佳作だ。今回の映画音楽の編曲版や、世界初演された演奏会作品も、世界初録音となる。映画音楽の第一線で活躍しながらも、最終的には作品を演奏会の聴衆に届けたいと考えるデスプラ。彼と、彼の表現の精髄を知りたいファンにとって、今作に触れることは至福の瞬間となるだろう。