(C)Fabien Monthubert

 

歴史のターニングポイントを生きた作曲家達へのオマージュ

 誰ですか“パユのコスプレ第2弾”なんて笑顔で口にしているのは。「ベルばら」の一場面を連想する、ですって? ……いや、こんな妄言も決して失礼にはあたるまい(そう思いたい)。2011年にリリースされたアルバム『無憂宮の音楽』で、収録曲のキーワードとなるプロシアの“大王”フリードリヒ2世を模した衣装を着てジャケット写真に収まっていた彼が、今度はトリコロールのコーディネートに身を包み(ボトムスこそジーンズだけど)、革命闘士さながらの姿で宙に踊っているのだから。剣ならぬ1本の笛を手に。

EMMANUEL PAHUD ドヴィエンヌ、ジアネッラ、グルック、プレイエル~フランス革命時代のフルート協奏曲集 Warner Classics(2015)

 1789年という歴史のターニングポイントと相前後する期間にパリで活躍した、4人の作曲家のフルート協奏曲がプログラムを飾る。そこから見事に炙り出される時代の息吹。バロックの終焉から古典派への様式的移行はもちろんのこと(グルックとプレイエルを並べてみればよい)、19世紀に入った頃のパリで流行したイタリア的ないしオペラ的な語彙の何たるかまで鮮やかに像を結ぶ(ケルビーニロッシーニの予兆をジアネッラの中に感じ取るのも不可能ではあるまい)。そして1枚の要とパユが位置づけるドヴィエンヌは、革命による教育体制の再編を契機として1795年に設立されたパリ音楽院における、初代フルート科教授。同音楽院の卒業生である彼が“フレンチ・スクール”の始祖へ捧げるオマージュの念まで伝わってこよう。

 「まさに革命的精神とファイティング・スピリットが備わっていた!」とパユが賞賛を惜しまない、アントニーニ率いるバーゼル室内管との共同作業も実にスリリング。古楽のスタイルも踏まえた(ナチュラルホルンの響きも随所でハッとする効果を生む)合奏に、彼の操る14K金製のフルートがまるで違和感なく溶け込む。ピリオド楽器的発想をテクニックの中へ取り込むという次元を遥かに超えたアプローチ。それは筆者なりに換言してみると、1本の笛という人間にとって普遍的な創造行為の道具が、新たな時代の美学や芸術思潮の波をくぐり抜けることによって生じる驚きや感動(ときに軋轢)を、常にフレッシュかつ説得力も豊かな形で音のカンバスへ定着する作業に他ならない。バロックから現代物、さらにはエスニックなテイストの楽曲からジャズまで、吹きこなす作品に応じて自由自在に色を変える「カメレオン的な音楽家でありたい」と、自らの信条をパユは語っていたものだ。

 秋に予定されている盟友リヴェのギターと組んだ来日では、前作のCD『アラウンド・ザ・ワールド』の収録曲を軸にすえてツアーをこなす。いわばパユに導かれた音楽による世界旅行。添乗員役の彼が道中で着こなす衣装の七変化まで、目に浮かんできますね。

 

LIVE INFORMATION

エマニュエル・パユ 2015年来日コンサート
with クリスティアン・リヴェ(ギター)

○9/12(土) 会場:秋田アトリオン音楽ホール 
○9/15(火) 会場:岡崎市シビックセンター(愛知)
○9/16(水) 会場:兵庫県立芸術文化センター 小ホール【完売】
○9/17(木) 会場:王子ホール(東京)
○9/18(金) 会場:八ヶ岳高原音楽堂

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