©Nicolas Tavernierart

世界のトップソリストとして活躍するスーパースターによるドリームチームが木のホール神奈川県立音楽堂に初登場!

 レ・ヴァン・フランセ、来日、との報が届いた。神奈川でコンサートがおこなわれる、という。場所は木のホール神奈川県立音楽堂。

 弦楽器を中心とする室内楽と、管楽器による室内楽は、すこし趣きが違う。楽器も違うし、ひびきも、レパートリーも違う。アンサンブルのあり方もそうだ。

 たとえば弦楽四重奏。それぞれのメンバーはソリストとしての実力を持ちながら、アンサンブルをおこなってゆくことに、どこか、賭けている。楽器そのものはべつべつでも、同族で、ひびきはときに同質性をめざし、ときにおのおのの個性を際立たせる。

 管楽器のアンサンブルは、そもそも、みんな違う。息を吹きこむのはおなじでも、発音原理が違っていて、それにより音色の個性がでる。リードがあったりなかったり、一枚だったり二枚だったり。おなじ管(くだ)でありながら、なかのかたちも出自も歴史も、象徴性もべつべつだ。ホルンとなれば、木管ではなく金管である。それぞれの楽器がそれぞれの声、音色を持っていて、しかもソロ楽器として活躍もする。そんなのが集まっているのだから、ただおなじ音をだしたとしても、まじりかたが弦楽四重奏の均一性とはほどとおい。管楽器のために作曲家がペンをとると、それぞれの楽器の個性を活かそうとして、どのパートもおしゃべりになる。種々の鳥たちが啼きかわすよう。

 レ・ヴァン・フランセ、この名称、フランスの管楽器の意だ。vent[ヴァン]はinstrument à ventの略。アンサンブルだから、複数形で、les vents。でも、ventはもともと〈風〉の意味なのだ。息が吹きこまれるから管楽器、なんだろう。多くの楽器は木でできているから、木のホールと相性はいいのだが、建物の木と、楽器の木が、呼吸を介して、音を共鳴させると想像すると、〈木のホール〉神奈川県立音楽堂の席で聴くのは一段と、とおもわれるのだが、どうか。

 プログラムはどれも親しみやすい作品。リゲティの名があるが、作曲家が西側に亡命する前の作品で、コダーイやバルトークのひびきにちかい。エリック・タンギーは1968年生まれだから、いま脂がのっている。知っているかぎりの作品から推測するに、特殊奏法のオンパレードなんてことはない。ベートーヴェン作品は、交響曲も弦楽四重奏曲もまだ手掛けていない、若いころの作品。1918年のミヨーと1930年代のプーランクの作品は、ほぼ20年のひらきがあるが、ひびきとしてはつながっている。1999年、プーランク生誕100年を記念してリリースされたレ・ヴァン・フランセによる室内楽曲集は、両大戦間のちょっとざらつき、いらいらするかんじと、ユーモアとうたごころが交互にでてくる名演だった。ベートーヴェンの作品もそうだが、ミヨーやプーランク作品では、エリック・ル・サージュのピアノが加わることで、それぞれの管がソロになる場面が生きる。ここもまた、名手ぞろいのレ・ヴァン・フランセの音の、演奏の個性の聴きどころ。

 それぞれの演奏家の、ということでは、加えておきたいのがもうひとつ。いま世界中のオーケストラはドイツ系のファゴットが中心だが、このアンサンブルでジルベール・オダンはフランス系のバソンを演奏。このひびきが、ファゴットとどう違っているのか聴くだけでも、価値があるはずだ、きっと。

 神奈川県立音楽堂――かつて横浜のホールといえばここだった。わたしは高校生のとき、ここではじめてオペラ「修善寺物語」にふれたのだったが、以後、意欲的なコンサートにいくつも立ち会っている。諸般の事情でこのごろはご無沙汰しているが、プログラムをいつも気にしている公共ホールのひとつだ。

 列島最初の音楽ホールとして、1954年に開館。すでに65年以上の実績を持つ。2019年には改修工事が済み、リニューアル・オープン。2021年には〈神奈川県指定重要文化財(建造物)〉に指定された。

 このホールで、フランスの名手たちによる管楽器のアンサンブルが。

 


Les Vents Français
エマニュエル・パユ Emmanuel Pahud(Flute)
フランソワ・ルルー François Leleux(Oboe)
ポール・メイエ Paul Meyer(Clarinet)
ラドヴァン・ヴラトコヴィチ Radovan Vlatković(Horn)
ジルベール・オダン Gilbert Audin(Basson)
エリック・ル・サージュ Éric Le Sage(Piano)

ポール・メイエが中心となり、国際的に活躍する10年来の友人達と、フランスのエスプリを受け継ぐ木管アンサンブルとして結成。演奏される機会の少ない名曲の紹介、最高の奏者で最高の演奏を心がけており、合奏でも個人の輝きを見せるというフランスの伝統を重んじている。小さな編成から大きなアンサンブルまでレパートリーによってメンバーや編成も変わる。

 


LIVE INFORMATION
音楽堂ヘリテージ・コンサート Ongakudo Heritage Concert
レ・ヴァン・フランセ
Les Vents Français

2023年3月11日(土)神奈川・横浜 神奈川県立音楽堂 ホール
開場/開演:14:15/15:00

■プログラム
ミヨー:フルート、クラリネット、オーボエ、ピアノのためのソナタ op.47
Darius Milhaud: Sonata for Flute, Clarinet, Oboe and Piano, op.47

ベートーヴェン:ピアノと管楽のための五重奏曲 op.16
Ludwig van Beethoven: Quintet with piano op.16

タンギー:六重奏曲 *委嘱新作・日本初演
Éric Tanguy: Sextet *commissioned by Les Vents Français, Japan premiere

リゲティ:6つのバガテル
György Ligeti: 6 Bagatelles

プーランク:六重奏曲
Francis Poulenc: Sextet
*2022年12月現在の予定です。やむを得ず変更となる場合があります。

■チケット
全席指定
S席 7,000円/A席 6,500円
シルバー S席 6,500円(65歳以上)/U24 S・A席 3,500円(24歳以下)
高校生以下 S・A席 無料/車椅子席 S席 7,000円(付添席1名無料)

チケットかながわ:0570-015-415 (10:00~18:00)
チケットぴあ:http://pia.jp/[Pコード:217-777]
イープラス:http://eplus.jp/
ローソンチケット:http://l-tike.com/[Lコード:33573]
*U24 、高校生以下、車椅子(付添)はチケットかながわのみで取扱い。(シルバーは神奈川芸術協会でも取扱い)枚数限定、要事前予約。無料券も含め引き取り方法により手数料がかかります。
*未就学児の入場はご遠慮ください。[有料託児サービスあり]

JR桜木町駅前から無料シャトルバス運行!
音楽堂ヘリテージ・コンサート 特設サイト
https://ongakudo-classic.com/

主催:神奈川県立音楽堂(指定管理者:公益財団法人神奈川芸術文化財団)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)/独立行政法人日本芸術文化振興会