Photographer: Denis Felix
©Denis Felix licensed to Warner Classics

レコーディング歴は既に30年。なおも枯渇と無縁の音楽的アイデア。

 取材は最もホットな話題から始まった。去る9月末の来日直前、デンマークのレオニー・ソニング音楽賞の2024年度受賞者にパユが選出されたのだ。国際的に活躍する音楽家に授与する権威も高い賞として60余年の実績を持ち、歴代の受賞者は壮観の一言。フルーティストとしては1978年のランパル以来、二人目となる。

 「2024年の5月から6月にかけて、受賞記念演奏会の他に室内楽や無伴奏リサイタルやマスタークラスを含む、ミニ・フェスティバル的なステージが組まれる予定です。受賞の報せに〈なぜ僕!?〉と驚きましたが、これまでの活動を通じて、同時代の作曲家や聴衆との関係性を意識してきた姿勢が評価されたのなら、嬉しく思います。そこにはワーナーミュージックと30年積み重ねたレコーディングも含まれますね」

EMMANUEL PAHUD, ERIC LE SAGE 『ロマンス~ロベルト&クララ・シューマン、ファニー&フェリックス・メンデルスゾーン作品集』 Warner Classics(2023)

 その最新盤が『ロマンス』。19世紀中葉のドイツ・ロマン派音楽を取り上げた1枚にシューマン夫妻とメンデルスゾーン姉弟が肩を並べ、女性作曲家にも光があたるという趣向が面白い。パユらしく知的で、今日的な視座も備わる。

「シューマンがオーボエのために書いた“3つのロマンス”、クラリネットのための“幻想小曲集”。これをシューマンのエキスパートであるエリック・ル・サージュと吹くのは啓示に富む体験です。そしてシューマンの妻クララが残したヴァイオリン作品“3つのロマンス”は、どうしてこれまでフルーティストが取り上げてこなかったかと思うほど、美しい瞬間に事欠きません。そこに一貫する歌の表現と呼応するものとして、ファニー・メンデルスゾーンのリートから6曲を選んでみました。プログラムをしめくくるメンデルスゾーンのへ長調ソナタは、ヴァイオリニストには不思議と人気がないけれど、フルートへのアレンジは魅力的に響くし、テクニカルな見せ場も十分にありますね」

 このアルバムのセッションと並行して録音された、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ集が次回作として控えている。全4曲を収める予定だが、その中のホ短調ソナタK304は、パユが以前の来日時に取り上げ、非常に印象深い演奏を残した1曲にもあたる。

 「旅行先のパリで母親と死別した時期に書かれたもので、この曲を境に彼の音楽が一変した印象すら受けます。モーツァルトの作品でも特異な位置にあると思う」

 自らの作品観や、音楽が内包するストーリーを聴衆と分かち合うことに、使命感を抱くパユ。その受け皿となるアルバムのアイデアは、まだまだ枯渇しそうにない。