©Denis Felix

時代や様式を越えた〈夢〉のアルバムが誕生!!

 昨年もベルリン・フィルの来日公演に参加するなど、日本のフルート・ファンを大いに魅了したエマニュエル・パユが注目の新譜を発表した。そのコンセプトは〈夢〉で、彼は近年「この楽器の持つ霊的な側面と、作曲家の創造性の原動力になっている夢想に深く想いを寄せるようになった」とのこと。そこでドイツ・ロマン派のライネッケを核に、ペンデレツキ、モーツァルト、ブゾーニ、武満徹という時代も様式も異なる傑作を並べたのが当盤という訳だ(共演は、オペラなどで活躍中の俊才イヴァン・レプシッチが指揮するミュンヘン放送管弦楽団)。冒頭とラストを飾るペンデレツキの協奏曲&武満徹“ウォーター・ドリーミング” は、ライナーノートにもある通り、ライネッケの名画を囲む額縁の役割を果たしている。

EMMANUEL PAHUD Dreamtime Warner Classics(2019)

 「色彩豊かな単一楽章のペンデレツキの協奏曲は、ローザンヌ室内管の創立50周年を祝って書かれ、ジャン=ピエール・ランパルが1993年に初演した夢のような作品。その10年後に私が同じオケと再演したこともあり、長らく重要なレパートリーであり続けてきました。武満徹の“ウォーター・ドリーミング”も実に抒情的で夢幻的ですが、こちらはオーストラリアの原住民の絵画に触発されて誕生。様々な挿話が円環して完結しないような曲想で、いつのまにか冒頭のペンデレツキに還ってゆくため、無限にループして聴ける流れになっています」

 ハイライトのライネッケは、協奏曲とバラードの2作品が選ばれた。

 「ロマン派の芳香に溢れた協奏曲は、私のファンから長年録音のリクエストが多かった作品。“夢見るように”と指示がある第1楽章の第1主題をはじめ、一人でも多くの聴き手に何か発見があれば嬉しいです。一方、アンダンテの激しさと郷愁は、メンデルスゾーン『真夏の夜の夢』の妖精の踊りを彷彿とさせますね」

 このライネッケにサンドウィッチされて並ぶのが、古典派のモーツァルトのアンダンテと、ポスト・ロマン主義のブゾーニによるディヴェルティメントだ。

 「ブゾーニのディヴェルティメントは、諧謔性と透明感を備えた独特の作風が魅力ですね。そして、モーツァルト。彼はフルート嫌いだったと言われますが、指揮者が私の正面に立ち、その周りをオケが取り囲んで行われた今回の録音は、私にとって最高のドリームタイムでした」

 自身の夢を、「起きたらすべて忘れていて。でも、私の人生が夢のようなものですから」と笑顔で語るパユ。その夢の旅路は、来年も美しい音色と彩りをたたえながら続いてゆく。