©Hiro Isaka

フルートとギターが世界旅行にいざなう

 ベルリン・フィルの首席フルーティストとして世界的な指揮者と演奏し、またソリストとして国際舞台に立ち、さらに気の合う仲間たちとの室内楽でも活躍している〈フルートの貴公子〉と称されるエマニュエル・パユ。天才的なテクニックと表現力をもつことで知られ、レパートリーもクラシックのみならずジャズ、ポップス、民族音楽まで幅広く演奏しているが、そのパユが新しく世に送り出したアルバムは、〈アラウンド・ザ・ワールド〉と題する、まさに視野の広さを表す内容。1987年に出会い、以来ずっと共演し続けている盟友のギタリスト、クリスティアン・リヴェと世界各地の音楽をレコーディングしたものである。

 「クリスティアンは作曲家でもあり、今回のアルバムにも“クラップ”という曲を書いてくれた。彼のギターは繊細で情感豊か。人間的にもすばらしく、この曲にもそれが全面的に現れ、曲は日本庭園を思わせる」

EMMANUEL PAHUD 『Around The World』 Warner Classics/ワーナー(2013)

 パユは父親の仕事の関係で、幼いころからさまざまな土地で暮らし、いろんな音楽に触れてきた。このアルバムの選曲は、そうした自分のルーツをたどる意味合いが含まれ、いまようやくこうしたアルバムを作る時期が巡ってきたのだという。

 「バルトーク、ラヴィ・シャンカル、ヘンデル、モーリス・オアナ、エリオット・カーター、フランチェスコ・モリーノ、細川俊夫、ピアソラという選曲なんだけど、各曲にそれぞれたくさんの思い出があり、そうした作曲家たちの音楽を聴いてくれる人、リスナーとともに旅をしたいと思ったのです」

 ここには、パユの人生が凝縮し、彼の人間として、音楽家としての軌跡をも見出すことができる。

 「バルトークやピアソラ、ラヴィ・シャンカルは民族的なリズムが特徴で、それぞれまったく異なる。そこに注目してほしい。実は、録音をしているときにラヴィ・シャンカルとエリオット・カーターが亡くなったんですよ。ふたりとも私に大きな影響を与えた。そのときに、このアルバムは彼らへのトリビュートにしようと決めたんです。そして8歳のときに初めて人前で演奏したヘンデルのソナタは私にとって記念碑的な曲。演奏していると、そのときの自分を思い出しますね」

 パユは、先ごろアメリカのメーカー、ヘインズの新しいフルートを手に入れた。とてもエレガントで色彩感に富む楽器で、バロック音楽を吹くのにピッタリだそうだ。彼は自ら「ワーカホリック」というほどの仕事人間。このフルートを手に入れたことで、さらに新たなる方向を切り拓いていきたいと意欲を示す。

 このアルバムは聴き手の心を解放し、世界の街角へと運んでくれ、しばし夢を見させてくれる。常に頭のなかは音楽でいっぱい、というパユの真摯で上質で創造性に富む演奏が心の奥に響いてくるからだ。