自身のグループに加え、STEREO CHAMP、Sup、4ACES等の一員としても活動。現代日本ジャズシーンにおける最重要ピアニストのひとりである渡辺翔太が、Days of Delightからアルバムを発表する。タイトルは『Song for the Sun』。「一緒に音を出したらどこへでもいけそうな感覚がある」と渡辺自ら語る、やはりシーンに不可欠なベーシスト、マーティ・ホロベックとのデュオアルバムだ。
「〈渡辺翔太臭〉がムンムンするような、生々しい作品を作りたかった。彼に似たピアニストはどこにもいないから。なので、スタジオで部品を組み立てるような作り方ではなく、ライヴのように録りました。インタープレイを重視した、マーティ・ホロベックとのダイレクトな音の会話を捉えることができたと満足しています」とDays of Delightのオーナープロデューサー平野暁臣も力をこめる。
ではさっそく、この俊英ピアニストにバイオグラフィー的なことも尋ねつつ、『Song for the Sun』が持つケミストリーの背景に迫ってみよう。
大事なのは歌心とブルースフィーリング
――幼い頃はどんな音楽に親しんでいましたか?
「家でかかっている音楽を自然に聴いていました。5歳からクラシックピアノやエレクトーンを習っていたので、教則本のCDに入っていた“エリーゼのために”、“トルコ行進曲”、“キラキラ星変奏曲”なんかを好んで聴いた覚えがあります。
祖母にアップライトピアノを買ってもらって、〈このピアノと友達になろう〉と思ってしっかり勉強を始めたのは小学校3年生のときでした」
――ジャズに深入りしたきっかけは?
「高校時代に、ギタリストの父・渡辺のりおのバンド、ドランケンフィッシュのライヴがきっかけでした。名古屋の〈ell.FITS ALL〉に300人ぐらいお客さんが集まったライヴを観て、〈これが音楽だ!〉って感動したんです。
ギグが終わったあと、バンドのピアニスト、ダニー・シュエッケンディックに〈弟子にしてください〉と頼み込んで、レッスンを受けるようになりました。といっても、ダニーのレッスンは、〈ここではこういうスケールが使える〉みたいな教則本的な話はほとんどなくて、〈大事なのは歌心とブルースフィーリングだ〉〈もっと歌って! もっと自分を出して!〉といった感じでしたけれど。ほかにもフレーズをスムーズにつなげていくことや、左手のコンピング(いわゆる伴奏)を強くするように、と言われたことを覚えています」
――その後、渡辺さんは、今となっては伝説的なジャズファンクバンド、赤門(2003年結成)に加わりました。赤門のギターは現在、LAGHEADSで演奏している小川翔さんですね。
「もともと僕は初期のメンバーじゃないんです。高校3年生のときに、〈『赤門デラックス』というのをやるから来て〉と誘われて、一回ライヴに出るタイミングで正規メンバーになりました」