Page 2 / 4 1ページ目から読む

これ以上は何もいらない

 アルバム・タイトルの『MAGNETAR』は強力な磁場を持った天体のことを指す。人を引き寄せるアルバムという意味を込めてつけたそうだが、今回はラッパーの人選から交渉までみずから動くケースが多かったというから、その点でもタイトルに合致しているといえようか。ともあれ、アルバムに先駆けてMVでも公開された、メロウなギター・サンプルにうつろうムードが尾を引くBASIとの“戯れ”。ラップの録音クオリティに差があって調整に苦心したという裏話をよそに、フランク・ン・ダンクの2人の快調なやりとりが光る“Splash”。本録りではなくデモのほうを採用したという仙人掌の生々しいラップが、彼流のリリシズムと相まってビートとベストな相性を見せるアルバムの白眉“Deadly Combo”。そしてまた、ウワネタやエフェクトでハメを外すビートに当てられたか、ラフにかますDUSTY HUSKYのラップも調子いい“WooWee”や、スカイズーとの“For Real”……自身いわく「これで出来た、これ以上は何もいらないっていう削ぎ落としたループ」を核とする本作のビートはまさにMitsuの真骨頂。シンプルながら飽きのこないそれらと合わせて、展開のある音作りも、金子巧のサポートと共に『ALL THIS LOVE』から引き継がれている。アルバムの曲を引き合いに出しながら彼が言う。

 「例えばフランク・ン・ダンクや仙人掌とやったような曲はラップ勝負のワンループであとは抜きや声を目立たせるところを作ったりとか従来の作り方をしたくなるんですけど、BIM君との“都会”にしてもJambo Lacquerとの“Priceless”にしてもメロディアスなものは怖くなるっていうか、つまんなくなるのが嫌なんですよ。だから自然に展開を作りたくなるし、3ヴァースあると1ヴァースは展開つけたくなっちゃう。ISSUGI君との“ABC”はそこでせめぎ合いがあって、僕が最初2ヴァース目の後に思いっきりピアノがついた展開を作ったんですけど、ISSUGI君が抜きとかも作ってきてそこをちゃんと元に戻してくれて、やっぱ展開をつけないほうがカッコ良かったなって思わせてくれました」。