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グランドピアノの響きに折り重なっていくBialystocksの音

転換中の場内では開演前と打って変わりフランク・シナトラなどがかかっている。『Tide Pool』の制作でもリファレンスの一つとなった、ミュージカル映画を彷彿とするオールディーズが流れるのは1回目と同様だ。

しかし大きく異なるのが、前回菊池剛の前にはキーボードが置かれていたのに対して、今回は魔法バンドの谷口が弾いていたグランドピアノも引き続きステージにセッティングされていたこと。準備が完了すると菊池が一人で登場し、ピアノソロからライブが始まる。少し遅れてパラパラと他のメンバーも立ち位置についていき、甫木元が“ごはん”を歌い出すと、それぞれが折り重なるように音を重ねて本編に突入していくという美しい演出だ。

 

西田修大の冴えわたるギタープレイとの〈交流〉

この日の編成は甫木元と菊池に加えて、西田修大(ギター)、越智俊介(ベース)、小山田和正(ドラムス)、原田侑子(コーラス)、オオノリュータロー(コーラス)を迎えた7人編成。中村佳穂や君島大空など、数々の音楽家と活動を共にしている西田が初めて参加し、共演相手だけではなくバンド内でも新たな〈交流〉を図ろうする意図が見えた。

また彼の存在によって、ダイナミクスと性急さが際立っていたのがこの日とても印象に残っている。特に“All Too Soon”や“コーラ・バナナ・ミュージック”などBialystocksの中でも大胆な抑揚を持った楽曲との相性は抜群。アーミングや激しいフレージング、エフェクトによってフィジカルな熱量がほとばしっているのに、どこか無機質で鋭利な西田のギタープレイが冴えわたっていた。

 

Bialystocksの音楽がオルタナティブロックとミクスチャーした瞬間

また佳境に入って演奏された“I Don’t Have a Pen”で菊池の象徴的かつ流麗なピアノフレーズと西田のギターソロが拮抗し、一気に全体のテンションが底上げされた場面は、一番のハイライトだろう。R&Bやジャズ、カントリーなどを取り入れてきたBialystocksの音楽が、初めてオルタナティブロックとミクスチャーした瞬間だ。

その一方で大きな武器の一つでもあった重層的なコーラスワークの存在は前回よりも相対的に減退し、ギター・ドラム・ベースのプレイが前景化したようにも感じた。全体的にテンポアップし一気にロックバンド化したこのステージを経て、ライブバンドとしてのBialystocksがどんなバランスに落としどころを見つけるのかにも今後期待したい。

 

ビッグニュースの発表、魔法バンドと“カントリー・ロード”を演奏したアンコール

本編の最後に“Nevermore”を披露して、観客がアンコールを求めると、メンバーが現れる代わりにスクリーンが降りてきて映像が投影された。そこで発表されたのは甫木元の6年ぶりの監督映画「はだかのゆめ」の公開、さらに10月に大手町三井ホールで初の単独公演を開催するというアナウンスであった。

観客が驚く中で、甫木元が挨拶し、出演者全員を呼び込む(谷口はギター、越智はキーボード、小山田はタンバリンという特別編成)。優河とお互いの距離感を確認し合うようなクロストークで、92年生まれの同い年であることも判明するなど和やかな空気が流れた後に、優河の提案だという“カントリー・ロード”を演奏。日本語詞と英語詞を織り交ぜながら歌い、オルタナカントリー的なリラックスしたムードで終演となった。甫木元と優河という個性の異なる稀有な歌い手の声の交歓は、この公演のもう一つのハイライトだったと言える。

 

第2回で加速した〈アートフォームの拡張〉

ビッグニュースの応酬に加え、前回はなかったコラボレーションまで届けられた第2回目。本イベントで掲げた〈音楽交流〉の色合いは際立ってきたし、「はだかのゆめ」の音楽もBialystocksが担当しているということで、まさに〈アートフォームの拡張〉が加速しているではないか。今、観ておかなければいけないバンドという実感がより強まった公演となった。

 


SETLIST

■優河 with 魔法バンド
1. WATER
2. さざ波よ
3. fifteen
4. 夜になる
5. June
6. 夜明けを呼ぶように
7. people
8. 魔法

■Bialystocks
1. ごはん
2. All Too Soon
3. 花束
4. フーテン
5. コーラ・バナナ・ミュージック
6. 光のあと
7. またたき
8. Over Now
9. I Don’t Have a Pen
10. Winter
11. 差し色
12. Nevermore

ENCORE
1. カントリー・ロード(カバー/優河with魔法バンドとコラボ)

 


LIVE INFORMATION
第一回単独公演 於:大手町三井ホール

2022年10月2日(日)東京 大手町三井ホール
開場/開演:17:15/18:00
前売り:5,500円(税込/自由席/ドリンク代別)
チケット:https://w.pia.jp/t/bialystocks-22/

 

FILM INFORMATION
はだかのゆめ

■ストーリー
四国山脈に隔たれた高知県。いまだダムのない暴れ川の異名をもつ四万十川。太平洋に流れ出るその川の流れと共に、生きてるものが死んでいて、死んでるものが生きてるかのような土地で老いた祖父と余命をそこで暮らす決意をした母、それに寄り添う息子、ノロ。嘘が真で闊歩する現世を憂うノロマなノロは近づく母の死を受け入れられずに死者のように徘徊している。そのノロを見守るように寄り添うおんちゃん、彼もまたこの世のものではないのかもしれない。息子を思う母、母を思う息子がお互いの距離を、測り直していく、母と子の生死の話。

監督・脚本・編集:甫木元空
出演:青木柚/唯野未歩子/前野健太/甫木元尊英
プロデューサー:仙頭武則/飯塚香織
撮影:米倉伸
照明:平谷里紗
現場録音:川上拓也
音響:菊池信之
助監督:滝野弘仁 
音楽:Bialystocks
製作:ポニーキャニオン
配給:boid/VOICE OF GHOST
2022年/日本/カラー/DCP/アメリカンビスタ/5.1ch/59分
©PONY CANYON

 

RELEASE INFORMATION

Bialystocks 『差し色』 Bialystocks(2022)

リリース日:2022年14月15日
配信リンク:https://lnk.to/sashiiro

TRACKLIST
1. 差し色

 


PROFILE: Bialystocks
2019年、ボーカル・甫木元空監督作品、青山真治プロデュースの映画「はるねこ」の生演奏上映をきっかけに結成。ソウルフルで伸びやかな歌声で歌われるフォーキーで温かみのあるメロディーと、ジャズをベースに持ちながら自由にジャンルを横断する楽器陣の組み合わせは、普遍的であると同時に先鋭的と評される。2020年、大型フェス(〈METROCK 2020〉)への出演が決定。2021年、ファーストアルバム『ビアリストックス』を発表。収録曲“I Don’t Have a Pen”はNTTドコモが展開する〈Quadratic Playground〉のウェブCMソングに選出されている。2作目の全国流通EPとなる『Tide Pool』には、すでに話題になっている先行シングル“光のあと”“All Too Soon”ほか全5曲を収録。

PROFILE: 優河
2011年からシンガーソングライターとして活動を開始。2015年、ファーストフルアルバム『Tabiji』をリリース。2018年、セカンドアルバム『魔法』をリリースし世界観がより一層深まったダイナミックな音像で好評を博す。2019年、映画「長いお別れ」の主題歌“めぐる”を書き下ろし、同タイトルのEPをリリースした。全国各地でツアー、ライブやフェスにて音楽活動を積極的に行う。ミュージカル「VIOLET」ではオーディションにより主役VIOLETに選ばれ舞台初出演となる。2022年、ニューアルバム『言葉のない夜に』をリリース。