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コラム

ハドソン・モホーク(Hudson Mohawke)『Cry Sugar』鬼才が待望の新作でフロアに鳴り響かせるパーティー再開の祝福と不吉さ

©Jonnie Chambers

TNGHTでもさらに飛躍したハドソン・モホークが超待望のサード・アルバムを完成! 自由自在に鮮烈なアイデアを繰り出す鬼才はこの時代のフロアにどんな音を響かせる?

 説明不要のハドソン・モホークが待望のサード・アルバム『Cry Sugar』を完成した。映像作家のkingcon2k11監督によるティザー映像“Cry Sugar (Megamix)”には往年のMAD動画のような乱暴さもハイパーポップ時代に即した奇妙なグロテスクさも感じられたが、そもそもインターネットの海原から世に出た初期世代のクリエイターとも言えるロス・バーチャードにとって、その打ち出し方は不思議なものではないのかもしれない。そうでなくても、パンデミック期に入ってからの彼は、ルニスと組んだTNGHTの『II』を投下した2019年までのモードとは打って変わって、00年代にまで遡るアーカイヴから掘り起こした未発表曲集『B.B.H.E.』『Poom Gems』『Airborne Lard』を立て続けに配信リリース、ワープ契約のきっかけになったミックステープ『Hudson’s Heeters Vol. 1』(06年)の初アナログ化もして、スロウバックな表情(?)で1年を過ごしていた。それは行動制限に伴うやむないアクションだったとしても、過去の自身の断片に触れることは何かしらの原点を見つめ直す機会になったのではないか。

HUDSON MOHAWKE 『Cry Sugar』 Warp/BEAT(2022)

 そう思えるのは、ここに届いた『Cry Sugar』が往年のエディット・マナーを思わせるビートから大ぶりなネタ使いのトラップ~ベース・ミュージックまで雑多なフィーリングが混在した破天荒さに揺り戻しているように思えるからだ。とはいえ、アルバムとしての完成度を追求した傑作『Lantern』(2015年)から7年の間にはカニエ・ウエストの『The Life Of Pablo』やアノーニの『Hopelessness』(2016年)をはじめ、クリスティーナ・アギレラやFKAツイッグス、バンクス、アイコナ・ポップらのプロデューサーとしても経験を積んできていたわけで、それだけに彼が単純なミックステープ感覚に立ち戻るわけでもなく、ヴァンゲリスやジョン・ウイリアムスの映画音楽に影響されたというトータルな意識が多彩なトラックをひとつのアルバムとして結び付けている。

 冒頭の小品“Ingle Nook”ではクウェズ(ピアノ)やレット・スミス(ギター)の演奏がヨハン・レノックス(ビッグ・ショーン、070シェイク、フィニアス他)のストリングス・アレンジも相まって作品世界のオープニングを壮麗に装飾。以降も要所にインタールード的なシンセウェイヴやビートが盛り込まれ、性急なまでに享楽的なダンス・トラックやポップなヴォーカル・チューン、ハドモーならではのアンセミックなカットアップ・ソウルを一遍のストーリーへと組み込んでいく。

 先行カットの“Bicstan”はガバを思わせる粗暴なダンス・トラックで、コピーライト × イマーニのハウス曲“I Pray”をアップリフティングなガラージ作法で再構築した“Intentions”、俳優/ダンサーのメッテ・トーリーがクールなフックを口ずさむ古めかしいエレクトロ・ヒップホップ“Dance Forever”、テイラ・パークス(アリアナ・グランデ“thank u, next”で知られるシンガー/ソングライター)が溌剌と歌うエレポップの“It Is Supposed”と“Tincture”も実にキャッチーに仕上がっている。

 そんななかでもやはり今作のトーンを強く印象付けるのは、ソウルフルな声ネタを得意の大胆なエディットで響かせる“Behold”のようなアンセムだろう。前作『Lantern』での“Ryderz”を思わせる同曲は現代ゴスペルの人気者、ターシャ・コブスの“For Your Glory”を用いたものだが、今回は他にもジェイムズ・クリーヴランド師のスタンダード“God Has Smiled On Me”を用いた“Some Buzz”やチャド・ヒューゴが共同プロデュースした“Redeem”、さらには先述の“Intentions”も含めてゴスペル由来のサンプリングやフレーズが際立って耳に残る。同じ手法でいうと、アルバム・タイトルの由来にもなった“3 Sheets To The Wind”は70年代のソウル・グループであるダイソンズ・フェイシズの“Cry Sugar”をベタ敷きした一曲だ。

 他にもクラレンス・コーヒーJrが歌うソウルフルな“Bow”や、フェイス・エヴァンス“Soon As I Get Home”の一節をティーケイ・マイザが歌った“Lonely Days”、カーリーンを迎えた不穏な“KPIPE”など楽曲のスタイルはさまざま。終盤ではサーシャ・アレックス・スローンの声を配した“Come A Little Closer”がエモーショナルな終局を告げて、アルバムは穏やかに幕を下ろしていく。

 ティザー映像やアートワークにも共通する不吉な雰囲気と、ふたたびパーティーの熱気が戻ってきた世のムードを祝福するかのようなカラフルさが騒々しく混在して独特の割り切れないバランスを描き出すことになった『Cry Sugar』。この傑作はそのように安定した不安定の上に立って日常と非日常を行き来する、現代の我々を象徴する音楽なのかもしれない。

左から、ハドソン・モホークの2009年作『Butter』、2015年作『Lantern』(共にWarp)、TNGHTの編集盤『I & II』(BEAT)

 

ハドソン・モホークが参加した近作を一部紹介。
左から、ダニーL・ハールの2021年作『Harlecore』(Mad Decent)、ジミー・エドガーの2021年作『Cheetah Bend』(Innovative Leisure)、ライラ・プラムクの2021年作『Delta』(Bedroom Community)、ミッキー・ブランコの2021年作『Broken Hearts & Beauty Sleep』(Transgressive)、バウアーの2020年作『Planet's Mad』(LuckyMe)