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馬場智章がメンバーのために書き下ろすクラシック × ジャズナンバー

――コンサートの第二部では、馬場さんがこの日のために書き下ろした全員参加のナンバーも演奏されます。

馬場「僕の中で、サックス奏者の馬場智章とコンポーザーの馬場智章は異なる位置にいるんです。自分が曲を書く時は正直、サックスがメインじゃなくてもいい。〈このメロディーはベースが弾いた方がかっこいいな〉と思ったらベースに弾いてもらいますし、コンポーザーとして、それぞれのミュージシャンが持つ音色を客観的に見ます。

今回で言うと、壺阪健登、小川晋平、小田桐和寛という僕にとっておなじみのメンバーがいて、彼らの音色をそのまま活かせたいなとも思っていますし、齊藤くんやピアノのAKI マツモトさんの良さ、表現の幅を活かせるようなパートも考えながら曲を作ろうと思っています。

齊藤健太&AKI マツモトのパフォーマンス動画

ジャズの現場でも割と、クラシックの要素を持つサウンドはけっこう多いと思うんです。クラシックの要素は、いろんな人の音楽の中にあると思います。最近で言うと加藤真亜沙とか、ちょっと昔のアルバムだと僕の好きなブラッド・メルドーの『Highway Rider』(2010年)とか。特にコンテンポラリーなジャズに関しては、クラシックとの距離はけっこう遠からずという感じがします」

ブラッド・メルドーの2010年作『Highway Rider』収録曲“John Boy”

 

大作曲家の古典と現代音楽にサックスで挑む

――第一部の馬場さんの演奏曲目はまだ未定ですが(ジャズで事前にセットリストが公開されることは非常に稀)、齊藤さんの演目はJ.S.バッハ“フルートと通奏低音のためのソナタ BWV1035”と棚田文紀“ミステリアス・モーニングIII”が発表されています。齊藤さんが1位に輝いた〈第7回アドルフ・サックス国際コンクール〉でも演奏された“ミステリアス・モーニングIII”は、とても冒険的というか大胆というか、刺激的な楽曲です。

齊藤健太の〈第7回アドルフ・サックス国際コンクール〉でのパフォーマンス動画。演奏しているのは“ミステリアス・モーニングIII”

齊藤「サックス自体、ほかの楽器に比べれば歴史が浅いので、サックスのためのクラシックのオリジナル作品も、新しいものばかりになっていく傾向があります。特にパリでは、新しいことをどんどんやっていこうという動きが数十年続いています。その新しい方法とはどういうものなのかというと、例えば重音だったり、息のノイズをわざと入れて、部屋の音と楽器の音を調和させたり、循環呼吸を盛り込んだり。それらは、基本的にクラシックではやっちゃいけなかったんです。

馬場くんがコンテンポラリージャズのものすごく強い世界観で演奏した時に、そこにどうクラシックからアプローチをしていけるかと考えた時に、この曲とバッハを演奏しようと思いました。誰が聴いてもクラシック音楽であるバッハと、〈そのクラシックから派生した現代音楽はこういうものだ〉というものを聴いていただければと思います。

“フルートと通奏低音のためのソナタ”も、一種のチャレンジです。バッハの時代はサックスがありませんでしたからね(バッハは1750年に死去、サックスが考案されたのは1840年代)。クラシックの演奏家も書き下ろし曲を演奏することはありますが、いわゆる大作曲家のエッセンスをもらいたいというか、その作品への憧れみたいなものは常にあります。大作曲家が特定の楽器のために作曲した作品を、自分の楽器で吹いたらどうなるか、それを表現したいと僕は思っています。サックスのためのオリジナル楽曲はロマン派後期以前にはないので、それ以前の曲に取り組むことは古典の様式の勉強にもつながりますし、その時代になかった楽器で演奏するとまた違った表情が見えてくるんじゃないかと、興味を持って取り組んでいます」

――今回のコンサートではどの種類のサックスを演奏しますか? 

齊藤「アルトとソプラノを演奏します」

馬場「僕はテナーに専念します」

――3種のサックスの音色が楽しめるわけですね。