©T.Shimmura

「今回の室内楽版は、弱音の表現にこだわりました」

 ベルリンを拠点に各地で活発な活動を展開している福間洸太朗は、2021年に39歳を迎えた。この年は自身のなかで〈ショパン・イヤー〉と位置づけ、ショパンの演奏を積極的に行った。

 「ショパンが亡くなったのが39歳だったからです。その年にショパンのピアノ協奏曲第1番の室内楽版のライヴ収録の話をいただき、大きな挑戦だと考えました」

 もちろん、オーケストラとの共演は何度も行っているが、弦楽五重奏との共演は初めてのこと。

 「日本フィルのメンバーとの共演で、事前にヴァイオリンの田野倉雅秋さんと入念な打ち合わせをしましたが、みなさん実力派ですので演奏はスムーズにいきました。今回は特に〈弱音の表現〉にこだわりました。第1楽章の再現部の主題はppにしたい、溜めも作りたいなど随所に要望を出し、リハーサルからしっかり理解していただきました」

福間洸太朗 『ショパン:ピアノ協奏曲第1番(弦楽五重奏版)』 BRAVO(2022)

 この録音は、聴き慣れた協奏曲に新風を吹き込むもの。冒頭のオーケストラの序奏から、慣れた耳に各々の弦楽器の音がクリアにみずみずしく響いてくる。

 「オーケストラの共演とは異なり、親密的で各声部が明快に聴きとれます。第2楽章はとりわけ弱音の表現が生きていると思います。第3楽章は室内楽版ならではの、ちょっとした〈遊びのルバート〉を楽しみながら弾きました」

 福間洸太朗は、パリ音楽院でサンソン・フランソワの唯一の弟子といわれるブルーノ・リグットに師事している。

 「リグット先生はイタリア系ですので、ショパンの演奏もオペラティックでルバートも個性的。演奏はおしゃれで感情をストレートに表現します。そのルバートが長年私のなかで抜けず、ようやく最近自分のものになってきたと感じています。子どものころに師事した井桁和美先生には、〈心の奥底からうたうことが大切〉という教えを受けましたが、まさに今回は心の奥底からうたうショパンが演奏できたと思います」

 録音にはアンコールとして、ショパンの“ノクターン第8番作品27-2”が収録されている。

 「ノクターンは第8番と第13番が大好きなのです。旋律と和声の美しさ、シンプルな伴奏形などに魅了され、せつなさも感じます。

 ドイツではトーマス・マンの『ファウスト博士』の朗読と合わせてベートーヴェンを演奏したり、日本の美術館で絵画を前に演奏したり。他の芸術との共演は作品の異なる面が見えてきます」

 新たな挑戦は演奏を肉厚なものとし、聴き手の心を引き付ける。

 


LIVE INFORMATION
福間洸太朗ピアノリサイタル スクリャービンVSラフマニノフ ~輝きを求めて~
2022年12月11日(日)東京・光が丘 IMAホール
開場/開演:13:00/14:00

■曲目
スクリャービン:前奏曲 Op.11より第1番~第6番、ソナタ第4番 Op.30、二つの詩曲 Op.32、ソナタ第5番 Op.53  他

Just Composed 2023 Spring in Yokohama―現代作曲家シリーズ―
Shimmering Water――ストーリーズ

2023年3月11日(土)神奈川・横浜 みなとみらいホール 小ホール
開場/開演:14:3015:00
出演:福間洸太朗(ピアノ)/目等貴士(ティンパニ)

■曲目
田中カレン:クリスタリーヌII 他
https://kotarofukuma.com/schedule/