水をテーマに掲げ、自らの編曲で新たな地平を拓く
福間洸太朗は会うたびにたくましくなっていく。ベルリンに暮らして10年、ここから世界各地に出かけ、幅広い作品を演奏。コンサートではひとつのテーマに基づき、いまもっとも演奏したい作品を組み、あまり演奏される機会に恵まれない作品も視野に入れる。
「好奇心が強いんです。常に新しいことに挑戦したいし、妥協はしたくない。20代のころは先々のことを考えずに仕事を引き受けていましたが、30代になって計画性を持つようになり、自分の成長に合わせたプログラムをじっくり組むようになりました」
彼はこれまで“水”をテーマにリサイタルを行うことが多かったが、新譜『モルダウ~水に寄せて歌う』では、自身が編曲したスメタナの《モルダウ》をメインに置き、メンデルスゾーン、ショパン、リャードフの《舟歌》を並べ、シューベルトのリスト編の歌曲も選曲。川、海、湖という流れでアルバムを構成している。
「《モルダウ》は4手用の編曲版とオーケストラのスコア、さらにリストの編曲手法なども参考にしながら行いました。最も難しかったのは激流の部分で、音が多いですから何度も書き直し、試行錯誤を繰り返しました。録音が終わってからも、もっと推敲を重ねた方がいいかなと思っているくらいです(笑)」
現在はまだスケッチで、完全な楽譜は書き起こしてないというが、この録音を聴き、ぜひ自分でも演奏してみたいというピアニストが現れるに違いない。
「テーマに基づいたプログラムを考えるのは本当に楽しいですね。今回の3つの《舟歌》も共通点があると考えて収録したものです。さらにシャリーノの《アナモルフォシ》はぜひ入れたかった曲。《雨に唄えば》が顔を出すなど、ここで雰囲気が変わります。この曲を入れたおかげで真面目すぎるアルバムにならず、微笑んで聴いてもらえると思います」
もう1枚、山田和樹指揮、横浜シンフォニエッタとの共演で、モーツァルトのピアノ協奏曲第9番《ジュノーム》とシューマンのピアノ協奏曲の新譜もリリースされた。両曲ともライヴ録音である。
「山田さんとは2013年2月にジュネーヴで初めてお会いし、翌年1月にこのシューマンの協奏曲で初共演しました。彼はオーケストラと強い絆で結ばれ、リハーサルはきびしいですが、いい緊張感をもって楽しく演奏できます。《ジュノーム》は私が希望した作品で、彼らとの共演だからこそ充実した演奏ができたと思っています。山田さんの音楽に没入し、いっさい妥協のない真摯な姿勢からは学ぶことが大きいですね」
今後は4年かけてモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトのシリーズを行う。その気概に期待!
LIVE INFORMATION
ピアノ・エトワール・シリーズ アンコール! vol.5 福間洸太朗ピアノ・リサイタル
○2016/2/20(土)15:00開演
会場:彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
N響 ゴールデン・クラシック
○2016/5/3(火・祝)14:30開演(プレコンサートあり)
会場:東京文化会館
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲