「長年ロシア作品にあこがれていました」

 世界各地で活発な演奏活動を展開しているピアニストの福間洸太朗は、ポジティブな精神の持ち主。パリ音楽院に留学したころから人と積極的に交流するようになり、言葉の壁や文化、歴史の違いを乗り越えてさまざまな国の人とつきあうようになった。現在はヨーロッパ、南米での演奏も多く、そうした土地では日本とはまったく異なった人々の気質やアクシデントに遭遇し、驚くことも多い。最初はとまどったが、いまではどんなハードルも難なくクリアするたくましさを身に付けた。そんな彼がロシア作品のアルバムを完成させた。ここには情熱と超絶技巧と迫力がみなぎっている。「長年、ロシア作品に対するあこがれがあり、音の厚みや息の長い旋律の歌い方、沈静していくような深い表現、適切なテンポ設定など練習を重ねてきました。ムソルグスキーの“展覧会の絵”は、10年前に日本のデビュー・リサイタルで演奏した思い出深い作品。視覚的要素を重視しています。ストラヴィンスキーの“火の鳥”は、全身を使って勢いをつけないと弾けないため、重心のかけ方が大切になります。チャイコフスキーの“ドゥムカ”は、15歳で最初に弾いたロシア作品です」

福間洸太朗 『火の鳥 ~ロシア・ピアノ作品集~』 DENON/コロムビア(2014)

 福間洸太朗は、6歳のときに初めてチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のライヴ演奏を耳にし、両親に楽譜を買ってほしいといった。5歳からピアノを始めたばかりだったが、このコンチェルトに魅了され、遊びながら自分なりに奏でたという。「本当に長い間ロシア作品に思いを寄せてきました。いま30代に入り、これまで積み重ねてきたものがようやく表現できると判断し、体力があるときに録音したいと思ったのです。今年2月、ソチオリンピック開催時にフランスで録音したため、ロシアに思いを馳せながら大好きなフィギュアスケートも映像で見ていました」

福間洸太朗によるバラキレフ作曲“イスラメイ(東洋的幻想曲)”のパフォーマンス映像

 彼は子どものころ父親にアイスリンクに連れられ、スケートの基礎を習いにいったという。スイスのステファン・ランビエールとは友人で、彼のアイスショーも見にいっている。これもランビエールに空港で声をかけたのが始まり。ラローチャ、チッコリーニ等にレッスンを受けたのも、自分から機会を作り出した。こうした積極性が福間の演奏に全面的に反映し、勢いあふれる前向きなピアニズムを生む原動力となっている。「来秋から3年かけてモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトのプロジェクトを行う予定です。私は現代作品も大好きで、リゲティをはじめとする作品も演奏していきます。ロシアの埋もれた曲も発掘したいし」

 世界に飛翔する若き才能の夢は大きく広がっていく。