気鋭の若手プレイヤーやレジェンドによる作品を発表し、国内のジャズシーンを盛り上げているレーベル、Days of Delight。2022年も怒涛のリリースを重ねたが、年内最後に届けられたのは鈴木勲カルテット+2『Blue Road』と日野元彦カルテット+2『Flying Clouds』という2枚の発掘盤だ。今回は、日本のジャズシーンがもっとも熱かった70年代半ばの空気をパッキングした2作について、その重要性や白熱の演奏の聴きどころを音楽評論家の原田和典が解説した。 *Mikiki編集部


 

スリー・ブラインド・マイスの初公開音源が高い鮮度で復刻

日本人ミュージシャンの新作を情熱的に送り出しているレーベル〈Days of Delight〉のカタログに、歴史的初公開音源が仲間入りした。鈴木勲カルテット+2『Blue Road』と、日野元彦カルテット+2『Flying Clouds』である。

 オリジナルテープ

トラックダウンの様子

収録は順に75年、76年。日本ジャズ史上に残る伝説的レーベル〈スリー・ブラインド・マイス〉(TBM)が74~77年にかけて開催したライブシリーズ〈5 Days In Jazz〉(5日間にわたって、さまざまなプログラムで日本屈指のミュージシャンが登場)におけるひとこまが、オリジナルエンジニアの神成芳彦みずから手がけたマスタリングによって、まるでつい先ほど録音されたような鮮度を誇りつつ、いま現在を生きる我々に差し出される。

 

鈴木勲

別格の切れ味の渡辺香津美と多彩な音世界――鈴木勲『Blue Road』

鈴木勲(1933~2022年)は1950年代半ばから活動を始めたベーシストだが、TBMにおける諸作は彼のマルチミュージシャンとしての姿にも光を当てている。『Blue Road』でもそれは同様で、エレクトリックピアノや7弦チェロによる妙技もたっぷり発揮。亡くなるまで現役を続け、丈青、スガダイロー、小沼ようすけ、井上銘、加藤一平など現代ジャズ界の要人をフックアップしたことでも知られるが、75年当時のバンドメンバーも強力このうえない。当時21歳だった渡辺香津美のギタープレイは別格級の切れ味で迫り、のちにPIZZICATO FIVEやTOKYO’S COOLEST COMBOなど小西康陽のプロジェクトに関わるほか、大江千里との共演アルバムを残す河上修のベースもソリストのプレイを堅実にサポートする。

鈴木勲カルテット+2 『Blue Road』 Days of Delight(2022)

晩年は欧陽菲菲のヒット曲“ラヴ・イズ・オーヴァー”やクラシックの“アヴェ・マリア”もレパートリーに加えていた鈴木だが、ここでもスティーヴィー・ワンダー作“Bird of Beauty”からフリージャズ色の濃い大作“Orang-Utan”まで、まるで一つのバンドによる一夜のステージとは思えないほど多彩な音世界を展開。心底エクレクティックな気質の持ち主だったのだろう。

『Blue Road』トレーラー

 

日野元彦

今村祐司のパーカッションのきめ細かくも豪放さ――日野元彦『Flying Clouds』

日野元彦(1946~1999年)のTBM盤といえば、76年2月に北海道根室市で録音された『流氷』(メンバーは日野、渡辺香津美、清水靖晃、井野信義、ゲストの山口真文)が名高い。『Flying Clouds』はそれから3か月後、都内でのライブだ。

日野元彦カルテット+2 『Flying Clouds』 Days of Delight(2022)

参加メンバーは、『流氷』と同じになる予定だった。当日の日野はハードスケジュールが重なっていたこともあり、決して本調子ではなかったという。友人のパーカッション奏者である今村祐司が〈俺も参加するよ〉とばかりに助演を申し出た。計6人によるステージだ。

この今村がすごい。ソリストのプレイに丹念に耳を傾けて、きめ細かくも豪放に一打一打を放つ様子の、なんというかっこよさ。日野のプレイも〈本当に万全ではなかったの?〉的、チャクラ全開というしかない圧巻の叩きっぷりだ。これが煽るということなんだ、と音で示すような打撃と蹴りの数々に、聴いているこちらの気持ちも高まるいっぽうだった。

渡辺香津美の書いた“Olive’s Step”は75年に日野がキング/ベルウッドに録音したリーダー作『TOKO』、および渡辺のフュージョン宣言というべきアルバム『Olive’s Step』(77年9月リリース)でも演奏されているので、今回、『Flying Clouds』が発表されたことによって、同じ曲に寄せる解釈がいかに変化していったか(いいかえれば、75年/76年/77年のありよう)が、いっそうビビッドに把握できるようにもなった。76年の“Olive’s Step”はとりわけ、汗がしたたる〈どジャズ〉だ。

『Flying Clouds』トレーラー

音が滾りまくる、日本ジャズの青春。環境が許す限り音量をあげて、全身全霊で浴びてもらいたい2作品である。  

 


RELEASE INFORMATION

日野元彦カルテット+2 『Flying Clouds』 Days of Delight(2022)

リリース日:2022年11月24日
品番:DOD-030
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST
1. 流氷(M. Hino)…………………21:10
2. Olive’s Step(K. Watanabe)……23:11
3. Flying Clouds(M. Hino)………17:22
(1976年5月27日 東京・ヤマハホールにてライヴ録音)

監修:藤井武/録音&ミックス:神成芳彦

■演奏者
日野元彦 Motohiko Hino drums
山口真文 Mabumi Yamaguchi tenor saxophone
清水靖晃 Yasuaki Shimizu tenor saxophone
渡辺香津美 Kazumi Watanabe guitar
井野信義 Nobuyoshi Ino bass
今村祐司 Yuji Imamura percussion

 

鈴木勲カルテット+2 『Blue Road』 Days of Delight(2022)

リリース日:2022年12月15日
品番:DOD-031
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST
1. Blue Road(I. Suzuki)…………………17:19
2. Where Are You Going(S. Horn)……7:54
3. Bird of Beauty(S. Wonder)…………4:36
4. Orang-Utan(I. Suzuki)………………19:32
(1975年5月26日 東京・日本都市センターホールにてライヴ録音)

監修:藤井武/録音&ミックス:神成芳彦

■演奏者
鈴木 勲 Isao Suzuki bass, cello, electric piano
森 剣治 Kenji Mori alto sax, bass clarinet, flute
渡辺香津美 Kazumi Watanabe guitar
守 新治 Shinji Mori drums
河上 修 Osamu Kawakami bass, electric bass
中本マリ Mari Nakamoto vocal