Page 2 / 2 1ページ目から読む

――“逢魔刻はキミと”では老人が縁側でお茶をすすりながら、亡くなったパートナーのことを想っています。これもP.K.O風ラヴソングですね。

PANTA「この歌詞は大島弓子の『たそがれは逢魔の時間』という漫画から触発された。大島弓子とは橋本治を介して出会ったんだよね。あと、俺と宮沢賢治っていろいろかぶるところがあると思っていて、賢治が高校の時に心を寄せていた保阪嘉内と同人誌を作るんだけど、その名前の〈アザリア〉を歌詞に入れたりもした。〈庭にタネを植える〉というのは、核ミサイルが飛んでくるかもしれないという時に、それでも新しいタネを植える、という映画があって」

――アンドレイ・タルコフスキー監督の『サクリファイス』ですね。

PANTA「そうそう。今の世の中、いつ核ミサイルが飛んでくるかもしれない危機感の中で生きてるじゃない?」

慶一「この曲もほかのラヴソングと同じと言えるかもしれない。明日どうなるかわからない世の中だからこそ、〈君が好きだから一緒にいたい〉という気持ちになる。このアルバムに入っているラヴソングは、今だからこそのラヴソングなんだよ」

――なるほど、世相が反映されているわけですね。曲調は慶一さんらしい作風です。

慶一「最初はフレンチ・ポップスみたいな感じを目指してたけど、だんだんアジアっぽくなってアジアの楽器を大量に入れた」

PANTA「俺にはない世界観だよ。慶一に触発されてできた曲だね」

――一方、“野生のエルザ”はPANTAさんのエレキギターをたっぷり聞けるロックな仕上がりで、本作でいちばん頭脳警察っぽい曲ですね

PANTA「この曲もスペンサー・デイヴィスみたいなイントロが触発してくる」

慶一「スペンサー・デイヴィスを意識して作ったからね(笑)。最初の一手だけでPANTAにはすぐわかるんだよ。口には出さないけど完全に読まれてる」

PANTA「手に取るようにわかる(笑)。だから曲を作る時に言葉はいらない」

――最初の一手でピンとくるけど世界観がまったく違う、というのが面白いですね。

PANTA「それが慶一とやっていて面白いところ。自分にはない世界だから最初は戸惑うけど、そこに自分の世界をはめていくのが面白い。この曲の歌詞を書いているときにエリザベス女王が亡くなったんだよ。〈エルザ〉っていうのはエリザベス女王のこと」

――2人が影響を受けたブリティッシュ・ロックのサウンドや寓話的な歌詞が反映された曲ですね。“虹の彼方に”が深い余韻を残します。

PANTA「それはLGBTの人たちが掲げている虹であり、サッチモが歌う“What A Wonderful World”に出てくる虹でもある。いろんな人種、宗教、セクシュアリティを乗り越えた場所だよね。でも、それがどんな場所かはわからない。虹は潜ろうとすると見えなくなってしまうから」

――そういえば、ユートピアは〈どこにもない場所〉という意味でしたね。では、2人にとってP.K.Oはどんな場所ですか?

PANTA「全部の壁がなくなった場所だね。頭脳警察やPANTAというイメージを捨てて、どこにでも行ける」

慶一「いろんな人といろんなバンドをやってきたけど、P.K.Oをやるとこれまでやってないことが浮かび上がってくるんだよ。P.K.Oには壁もないし出入り口もない。俺たちは何もないところで浮遊している」

――ロックンロール番外地、みたいな感じですね。

PANTA「番外地か、いいね! P.K.Oは俺たちにとってアディショナル・タイム。PK戦だな」

慶一「あと何分、何日、何年残されているのかわからないけど、まだやりたいことがあるっていうのは嬉しいよ(笑)」

 


P.K.O(パンタ・ケイイチ・オーガニゼーション)
1993年に頭脳警察のPANTAと鈴木慶一が結成した伝説のユニット。反骨精神に貫かれた活動で数々の伝説を残したロック・バンド、頭脳警察のPANTA、moomridersの中心人物で、最近では映画音楽の作曲家としても活躍する鈴木慶一。日本のロック・シーンの黎明期から、二人はお互いに刺激を与えあってきた親友。今なお現役で自分の道を走り続けている。

 


寄稿者プロフィール
村尾泰郎(むらお・やすお)

音楽雑誌の編集者を経て、フリーのライター/編集者に。音楽や映画に関する記事を中心にして、様々なメディア、ライナーノーツ、パンフレットなど幅広く執筆している。