違いを違いのままに共有点を探す
――アルバム中で最初に出来た曲は?
「“サウイウモノニワタシハナリタイ”だね。このビートの元ネタが昔から大好きで。これを作ったINGENIOUS DJ MAKINOからは〈こういうの作ったけど、どう?〉って感じで絶えずトラックを送ってもらってるんだけど、あるとき〈これBOSSに合うと思うんだよね〉って届いたトラックが、これ。嬉しくなってすぐにリリックを書いて録ったんだけど、録った以上はこれを発表したくて、そこからソロ・アルバムの構想が芽生えたのかもしれない。いわば発火点。この曲のINGENIOUS DJ MAKINOのビートから今回のアルバムが始まったと言っても過言ではないかもね」
――反対に、最後に書いた曲は?
「特典CDに入る“YEARNING Pt.2”だね。アルバムの概要が見えてきて、最後に仕上げて去っていくイメージで。“YEARNING”のほうはわりと早い時期、3~4番目くらいに出来たけど」
――なぜ早めに出来た“YEARNING”がアルバム全体のまとめのようなリリックになったんでしょう。
「俺も珍しいなと思う。でも、俺にとって“YEARNING”のトラックは大きかったよ。ああいうトラックでスピットするのはフレッシュだった」
――“YEARNING”をアルバムから最初の先行曲にした理由は?
「刷新感というか。MVを元日に発表するって決めたから、ダークなのは論外だし、ちょっとヌケのある感じというか、ブランニュー感のあるトラックで行きたかったんだ。で、最終的にアルバムの曲順を考えたときに、この曲は最後しか入れる場所がなくて。でも、先行カットをアルバムの最後に入れるのはどうなんだ?と思ってたんだよね」
――もうオチがわかってるようなことになるから?
「そう。でも、“YEARNING”は何回聴いても大丈夫で。むしろ14曲目が終わってからあのビートが来たときに景色が開ける感じがあるし、リリック的にもアルバムを回収してる。サビのメッセージもまさに俺って感じだし、長いフェイドアウトが良い余韻を残すしね。ナズの“It Ain’t Hard To Tell”も先行シングルだったけど『Illmatic』の最後に入っていたし、そういう作りも全然アリだなと思って最後に置いたんだ」
――近年のBOSSさんはコラボが増えています。誰かと一緒に音楽を楽しむ。そんな姿勢が強まっていますか?
「それはあると思う。この旅も長くなってきて、いろんな人と知り合って、俺自身もいろいろ学んで、世界が開けていった。ただ、みんなプライドがあるし、最前線で生き抜いてきた人たちだから、失礼があってはならない。だけど、〈ここはこうしてほしい〉ということを勇気を出して言わなきゃダメだし、その逆もあったりする。そこに妥協は一切ない。そういう関係性って緊張するんだよね。そのやりとりを同時進行で19人とやってるわけで。アルバム全体というよりは、その人との関係性で良いものを作る、この関係性を壊さない、その人との作業を笑って終わりたい――それが曲作りの原動力になっているから。良い意味で譲り合って隙間を埋めていく。違いを違いのままに共有点を探す、この境地だね。だから必然的にピースになる」
――ヒップホップ草創期の立役者アフリカ・バンバータは〈Peace, Unity, Love, and Having Fun〉と歌いました。本作はその精神が色濃く出ているんでしょうね。
「そうだと思う。ヒップホップの名の下に出会った友人とヒップホップを作るということだから。だからこそそこは自身のエゴだけじゃなくて、楽しみながら作るというほうが大きかったね」
関連盤を紹介。
左から、BOSSがプロデュースを手掛けたYOU THE ROCK★の2021年作『WILL NEVER DIE』、dj honda×ill-bosstinoの2021年作『KINGS CROSS』(共にTHA BLUE HERB RECORDINGS)
『IN THE NAME OF HIPHOP II』に客演したアーティストの作品を一部紹介。
左から、JEVAの2021年作『そして、伊藤純』(Jet City People)、SHINGO★西成の2022年作『独立記念日』(昭和レコード)、ZORNの2022年作『RAP』(All My Homies)、RHYMESTERの2021年のライヴ盤『MTV Unplugged: RHYMESTER』(ビクター)
THA BLUE HERBの近作。
左から、2019年のアルバム『THA BLUE HERB』、同年のシングル『ING/それから』、2020年のEP『2020』(すべてTHA BLUE HERB RECORDINGS)