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楽しければ楽しいほど影が強くなる

――先ほどの話にあった4人でいる〈喜び〉と対照的に、雄貴さんはそれが終わってしまう〈恐怖〉についても資料のコメントで書かれていました。それも、このアルバムに表れているのでしょうか?

雄貴「そう思います。岩井くんは怖いのが苦手なんだけど、僕らはホラー映画やホラーYouTubeチャンネルがめっちゃ好きで」

――僕もホラーは大好きです。

岩井「僕は好きじゃないです(笑)」

――ははは(笑)。

雄貴「たとえば、〈ゾゾゾ〉ってYouTubeチャンネルの方々が僕らのことを好きで、ライブに来てくれて繋がったんですね。でも、〈ホラーってなんで怖いんだろう?〉と考えるんですよ。

僕は飛行機恐怖症なんですけど、それは自分に生きる力や選択肢が残されているのに、飛行機が落ちてしまったら動けないで死んでしまうからなんです。仮に車が僕に向かってきたら、動いて逃げる選択肢がある。でも、飛行機にはそれがない。僕には子どもや家族がいて、自分が瞬時にこの世からいなくなってしまうこと、そのあとに起こることが怖いんですね。

そう考えた時、反対側に愛とか希望とか、ものすごく強い光があるから、恐怖が存在するんだなと思ったんです。前作の『Sea and The Darkness』(2016年)で僕は闇の中にいたので、恐怖の影のほうを強く描いたのですが、今回のアルバムは光のほう、明るい側にいる。でも、そのうしろには、影が確実に存在しているんです。

制作中にそのことを感じて、終わってしまうことが怖かったから、曲数を4曲増やしたり、何がなんでも時間を伸ばそうとした。楽しければ楽しいほど影が強くなるというのは、僕が考える世界のルールだし、だからこそ生きることはおもしろいんだと思います。

そういう意味で、僕はホラーが好きなんだなと。サウナに入るのと同じで、ホラーを見ると整うんだろうなって(笑)」

岩井「その二面性は、本質的だよね」

 

Galileo Galileiとして精一杯生きてやる

――自分の人生の終わりは究極的で根源的ですが、幸福な時間の終わりって、たしかにすごく怖いですよね。〈終わり〉を意識することはありますか?

雄貴「僕には子どもが3人いるんですけど、娘のすずめちゃんは心臓病と先天性の疾患を抱えて生まれてくることが、お腹の中にいる頃にわかっていたんですね。〈8割は生まれる前に亡くなってしまうから、棺桶を用意しておくように〉とお医者さんに言われていたんです。

でも、すずめちゃんは無事に生まれてきてくれた。手術も不可能なのでいつ容体が変わるかはわからないのですが、今もお薬を飲んで、呼吸器をつけながら元気に暮らしています。先日、1歳になったんですけど、また1年、一緒に過ごせるかなと思っています。僕らの会社のSuzume Studiosは、すずめちゃんの名前から取っているんですね。

そんなふうに、そばにあって目の前にある一つの生命が終わるかもしれない、という状態で過ごしてきて、僕の中にふんわりとあった〈終わり〉〈死〉というものが、急にものすごく高い解像度になりました。どれだけ大事されていようが関係なく、人って等しく死んでしまうし、その存在はいつかパッとなくなってしまう。その〈終わり〉より僕が先に終わってしまうのは絶対に許されないと思っているから、飛行機に乗ることがより怖くなっています。

すずめちゃんは今、精一杯生きていて、僕も今、精一杯音楽をやっている。〈精一杯生きる〉ってよく言われるけど、精一杯生きるってどういうことかを、すずめちゃんから学んだんです。そんなすずめちゃんのことを切り取りたくて曲を作っているし、生きた証を残したい。Galileo Galileiでチャリティをやりたいな、とも思っています。

『Bee and The Whales』のレコーディング中はスピーカーをすずめちゃんと繋いでいたので、このアルバムの中にはすずめちゃんがいるんですね。〈ふごー〉って呼吸音とか、一人で遊んでいる時の声とかがマイクに入っていたり。メンバーもその状況をすごく理解してサポートしてくれて大事に思ってくれているので、本当にいいバンドだなって思います。

Galileo Galileiは、それができるんですよね。そこがBBHFやwarbearとはちがうなと思いましたし、Galileo Galileiが僕にとって生きること、生きざまなんだなってわかりました。初めてメジャーデビューして、いわゆるヒット曲があるのもGalileo Galileiだけど、僕がGalileo Galileiで全てをさらけ出せるのは、そういう理由なんだなって。それが、めちゃめちゃ強い。だから、Galileo Galileiとして精一杯生きてやるぞって、いま強く思っています」

――私的な話ですが、私の妹も重い先天性の障害があって、呼吸器をつけて暮らしているんです。なので、雄貴さんの気持ちはよくわかってしまうというか……。

雄貴「そうなんですね。なんというか、心臓がバクバクって動いているのは、すごいことなんだなって改めて思いますよね。

そういうことを、変な重たさを持たせずに人に伝えて、シンプルに〈いいな〉と思ってもらえるものを作りたい。それができるのは、僕にとって音楽だけなんです。音楽を通して自分が見てきたもの、衝撃を受けたことを、Galileo Galileiで伝えていきたいんですよね」