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フリージャズに挑戦する音楽家が増えたのは2020年代から

――ところでテリーさんはどのようなきっかけでフリージャズを聴き始めたのでしょうか?

「ジャズに興味を持ち始めたのは高校生の頃、96年~98年の頃でした。当時なぜ僕がジャズを聴けるようになったかというと、ちょうどこの時期に台湾に海外のジャズアルバムがたくさん輸入されるようになったんですね。例えばOJC(オリジナル・ジャズ・クラシックス)レーベルの作品をよく聴いていました。そうやって海外のジャズに触れる中で、フリージャズも聴くようになったんです。学校の図書館にもCDやジャズの歴史を紹介する本があったので、高校時代はそこで聴いたり読んだりもしていました。

ミュージシャンで言うと、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツ、オーネット・コールマン、ジョン・コルトレーン等々は特に聴いてました。それと当時、外国のミュージシャンが台湾に来ていたので、そこでフリージャズスタイルのライブを実際に観る機会もあって、すごくクールだなと思って衝撃を受けました。

とはいえ当時は高校生だったので、どちらかというとやっぱりスタンダードな方を聴いていましたね。本格的にフリージャズを聴き始めたのは、2005年にベルギーに留学する前の時期、2000年~2004年の5年間です。その頃に色々な海外のミュージシャンを聴くようになりました。

2011年に台湾に帰ってきてノイズの人たちと交流する中で気づいたのは、ノイズにしろロックにしろ、あるいは中国の伝統楽器を使う国楽(漢民族の伝統音楽)の人たちにしろ、実はフリーインプロビゼーションで演奏できるミュージシャンが多いということでした。ジャンルは違えど即興的な表現が得意なんですね。それに台湾は分野横断的なコラボレーションが進んでいるので、例えばライブペインティングやコンテンポラリーダンスの人たちと一緒にミュージシャンが即興で作品を作ることもある。みんなそういった素養や実力を持っているんです。

にもかかわらず、ジャズだけ取り出してみた時に、ジャズというジャンルをど真ん中でやっている人たちは、台湾国内ではなぜかあまりそういった自由な即興的表現にトライしない。あえてしないようにしているのか、理由は定かではないですけど、2011年に帰国した時にそうした傾向は感じました。フリージャズにトライするミュージシャンが本格的に増え始めたのはここ3年間、つまり2020年代に入ってからですね」

 

台湾ジャズの今を牽引する才能たち

――2011年の帰国当初、テリーさんがセッションするようになった海外のミュージシャンには、どんな方がいましたか?

「旃陀羅レコードが2012年にサブさん(豊住芳三郎)を台湾に呼んだことがきっかけで、僕はサブさんと知り合うことになりました。それでサブさんと一緒にセッションを重ねたんですが、海外のミュージシャンの中で一番影響を受けた人物となると、やっぱりサブさんですね。

豊住芳三郎、謝明諺&許郁瑛の2023年のライブ動画

あとは台湾国内だと、クラシック出身なんですけど、僕と同世代で1歳年下の李世揚(リー・シーヤン/Shih-Yang Lee)というピアニストがいて、彼とのセッションからも影響を受けました。2012年にサブさんが来た時は、僕と李世揚と3人で一緒に演奏して、その後も交流が続いていきました。それで知り合ってちょうど6年目の2018年に『上善若水 As Good As Water』というアルバムをこの3人で出しました」

2018年作『上善若水 As Good As Water』トレーラー

――2011年の帰国当初は台湾でフリージャズがあまり盛り上がっていなかったものの、2020年になると増えてきた、と。そのように状況が変わるきっかけとなるようなイベントなどはありましたか? 例えば、2005年にスタートしたイベントシリーズの失聲祭(Lacking Sound Festival)などは、台湾のノイズシーンの醸成に少なからず影響を及ぼしたと思いますが。

「今おっしゃった失聲祭や先ほど挙げた旃陀羅レコード、それに先行一車(Senko Issha/台北のレーベル兼ショップ兼スペース)周辺の人たちに加えて、この10年間のことで言うと、2015年から台湾国際即興音楽節(Taiwan International Improvised Music Festival)という音楽フェスが2年に1回のペースで開催されてきました。そういった複数のイベントやレーベルでずっとプッシュしてきたものが2020年代に入ってから花開いたのだと思います。

特に台湾国際即興音楽節は、関連イベントも含め、台湾の色々な場所で大小の即興のライブを観ることができるプログラムを組んでいたので、そういった中で風土が醸成されていったというか、フリージャズ的なものが少しずつ根づいていったという流れはあります」

――2023年現在、台湾のフリージャズを牽引すると言いますか、テリーさんと同世代または下の世代で重要だと思うミュージシャンには、どんな人物がいるでしょうか?

「先ほども名前を出したピアニストの李世揚。それと、同じくピアニストの許郁瑛(シュー・ユーイン/Yu-Ying Hsu) 。あと、ギタリストの陳穎達(チェン・インダー/Ying-Da Chen)とドラマーの林偉中(リン・ウェイジョン/Wei-Chung Lin)。彼ら彼女らはスタンダードも上手いですけど、色々なプログラムにトライしていますし、よりフリーな音楽に踏み出している印象もあります。

許郁瑛の2010年作『許郁瑛首張爵士創作專輯 Untitled』収録曲“Twisted One (Inspired By Francis Bacon)”

陳穎達の2019年作『離峰時刻』収録曲“花紋”

陳穎達、謝明諺、池田欣彌&林偉中の2015年のライブ動画

これは僕の意見ですが、アバンギャルドな即興音楽ならなんでもよいわけではなく、フリージャズはやっぱりちゃんとジャズっぽく聴こえないといけない。僕としてはそこはこだわるべき箇所だなと思っています」