ジョン・コルトレーンの〈ヴィレッジ・ゲイトの夜〉が発掘!
毎年のように何かしらのリニューアルや発掘を伴うニュー・リリースが届いているジョン・コルトレーン。1940年代半ばからサックス奏者として活動を開始し、55年にマイルス・デイヴィスのクインテットに抜擢されたことで脚光を浴びた彼は、そこから短期間のうちに独自のスタイルを確立。67年に逝去するまで、ハード・バップ、モード、フリーとジャズが激動していく時代を象徴するような録音を残し、今日に至るまで賞賛と敬意を集める20世紀ジャズの巨人/偉人のひとりである。このたびリリースされた『Evenings At The Village Gate』は、近年NY公共図書館にて発見された完全未発表のライヴ音源をアルバムという形にまとめたものだ。
ライヴが行われたのは61年8月のヴィレッジ・ゲイトで、新しい音響システムのテストの一環としてエンジニアのリッチ・アルダーソンがたまたま録音していたのだという。パフォーマンスのタイミングとしては、インパルスでの初作『Africa/Brass』及びアトランティックへの置き土産となる『Olé Coltrane』を続けざまにレコーディングした5~6月と、その『Africa/Brass』がリリースされた9月のちょうど間の時期にあたり、演奏メンバーはその後11月に録音されることになる『“Live” At The Village Vanguard』(62年)とほぼ同メンツ。そして、モードとジャンルの実験を開始し、前衛的な音への移行を進めていたこの時期の録音に欠かせないのが、今回の発掘でもフィーチャーされているエリック・ドルフィーであった。
LA出身のエリック・ドルフィーは、チャールズ・ミンガス楽団やブッカー・リトルとのコンボなどで活動し、リーダー作も残しているマルチ・リード奏者。64年に逝去した際には遺品のバスクラリネットとフルートがコルトレーンに贈られたそうだが、そのように縁深かったコルトレーンとは、先述の『Olé Coltrane』と『Africa/Brass』の録音から手合わせしている。
以降も『“Live” At The Village Vanguard』で演奏し、さらに『Impressions』(63年)や後年の発掘セッション~ライヴ音源でもコルトレーンとプレイしているドルフィーだが、それらはいずれも61年5月から半年ほどの間にヴィレッジ・ヴァンガードやツアーで録音されたものだ。つまり、そうした太く短く濃厚な交流の賜物としても今回の『Evenings At The Village Gate』は貴重な記録ということになる。
今作には、61年の同名アルバムで取り上げていた名曲“My Favorite Things”をはじめ、ドルフィーのバスクラリネットが描く“When Lights Are Low”、後に先述の同名アルバムで録音される“Impressions”、そして『Africa/Brass』に収められたトラディショナル“Greensleeves”とコルトレーン作曲の“Africa”、という全5曲が収録されている。演奏はマッコイ・タイナー(ピアノ)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)、レジー・ワークマン(ベース)で、“Africa”でのみアート・デイヴィスがベースを弾いている。
なお、その“Africa”は現時点で唯一のライヴ音源という意味でも貴重極まりないが、アフリカからインスピレーションを得て書かれたこの曲は、スタジオとステージの両方でアイデアを試していたコルトレーンの当時のヴィジョンを改めて確認させるものとなるだろう。そうでなくても、アルバム全編にわたる恍惚としたライヴ・サウンドから多くの特別な瞬間を見い出すことのできる珠玉の一枚に他ならない。当日そこで演奏していたワークマンやエンジニアのアルダーソンの証言などブックレットも充実。ぜひこの歴史的な音源を体感してみてほしい。
左から、ジョン・コルトレーンの61年作『Africa/Brass』、62年作『"Live" At The Village Vanguard』、マッコイ・タイナーの2001年作『McCoy Tyner Plays John Coltrane』(すべてImpulse!)