(左から)平野暁臣、栗崎洋

来たる10月で設立から満5周年を迎える、日本ジャズのプラットフォーム的レーベルDays of Delight。これまでリリースされた作品数は、今月発売の中林薫平オーケストラ『Live at “COTTON CLUB”』(DOD-038)で41作を数え、熱量がほとばしる内容と共に、一見して同レーベルの作品とわかるジャケットデザインでも話題を集めてきた。

今回はハイペースでリリースを続ける同レーベルのファウンダー&プロデューサー平野暁臣と、デザインの一切を担当しているグラフィックデザイナー/アートディレクターの栗崎洋による対談をお届けしたい。活きのいいジャズをパッケージとして届けることの意味と、作品への思い。胸のすくようなひとときを、ここに文字化する。


 

レーベルにとってアートワークのアイデンティティがいかに大切か

――おふたりが出会ったきっかけを教えていただけますか?

平野暁臣「栗崎くんは、アメリカ留学を終えた後、日本を代表するグラフィックデザイナーである佐藤卓さんの事務所で働いていました。ぼくは卓さんをとてもリスペクトしていて、重要な案件はすべて卓さんにお願いしているんですが、そのひとつである岡本太郎記念財団/岡本太郎記念館のビジュアルアイデンティティの担当者がたまたま彼だったんです。まだ若かったけれど、そのときの仕事ぶりが頭に残っていて」

栗崎洋「10年ほど前ですね」

平野「で、Days of Delightの準備を進めていたときに彼のことを思い出した。じつは、レーベルを立ち上げるときに考えたことのひとつは〈デザイナーはひとり〉ということでした。レーベルにとってアートワークのアイデンティティがいかに大切か。往年の米ブルーノートやTBM(Three Blind Mice)を見て育ったぼくには、それが刷り込まれているんですよね。だから、先輩レーベルがやってきたように、デザインはひとりに任せようと。

そんな中で真っ先に頭に浮かんだのが彼だった。ちょうどその頃、偶然にも栗崎くんが卓さんの事務所から独立したばかりだった、ということもあって」

栗崎洋のデザインワークス。黒木渚の2022年のベストアルバム『予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる』など

――経験豊富なデザイナーが数多いる中で、あえて若い栗崎さんと組もうと思われたのはなぜなんでしょう?

平野「〈若いレーベルだから若い感覚でいこう〉という考えももちろんあったけれど、なんといってもこっちはズブの素人。ジャケットをたくさんつくってきた手練れのデザイナーと組んだら、相手の価値観や常識に否応なく引っ張られてしまうだろうと思ったんです。そうではなくて、若いデザイナーとぼくで一からコンセプトをつくり、一緒に成長していきたかったんですよね」

栗崎「平野さんからお声がけいただいて、もうド緊張ですよ。平野さんとは前職のときから面識はあったけれど、一対一で仕事を進めていくのは初めて。いろんな話をうかがいながら、それをどうやってビジュアルイメージに起こしていくか、いろいろ考えたし、ずいぶん悩みました。

最初はとにかく、ひたすら試行錯誤を繰り返しながら、たくさんのプランを出して、検証して、平野さんの考えと私のデザインの差を埋めていって……」

 

Days of Delightロゴ

岡本太郎の絵にジャズの躍動感や創造性を融合させたロゴ

――最初に取りかかったのは、レーベルロゴの作成ですか? 

栗崎「そうです。無数の案を検討し、その中から3つの案に絞り込んで平野さんに提案したんですが……」

平野「話にならなかった。瞬殺の門前払いでした(笑)。〈意志の力〉みたいなものが感じられなかったんですよ。うわべのデザイン処理でなんとかしようとしているというか、魂が入ってないというか……。要するに〈俺はこう考える〉〈俺が伝えたいのはコレだ〉という〈表現者からの圧〉みたいなものがぜんぜん感じられなかったんですよね。

それで突き返したら、まったく次元のちがう採用案が出てきた」

――このロゴは、岡本太郎さんの作品と〈Days of Delight〉という文字のコラボレーションというか。

栗崎「ジャズという音楽の持つ躍動感、Days of Delightが大切にするアート感覚とクリエイティビティ、これまでのレーベルロゴにはなかったダイナミズム……。どうすればそういったものを表現できるか、と考えていくうちに、それまでとは180度発想を変え、この太郎さんのドローイングありきで考えようと。そこに躍動感のある書体を調整し、ドローイングと融合させました」

――レコードレーベルのデザイン自体、このときが初めてだったのでしょうか?

栗崎「はい、そうです」

――以前からジャズはお好きだったのでしょうか?

栗崎「サンフランシスコ近くのサンノゼに留学していたときに、大きなCDショップがあって、ジャズやワールドミュージックの作品を1ドルや2ドルで買いあさっていました。ジャズは他のジャンルの音楽と比べて、聴いていると色や形のイメージがぼんやり浮かんできて、それが連鎖していく感じがあるんです。ビジュアルとすごく連動している音楽だと思いますね」

――インストゥルメンタルの場合、逆に歌詞のあるものより想像力をかきたてられたりする……。

栗崎「それもあると思います。言葉で景色が限定されない分、自由に解釈できるというか」

――新興ジャズレーベルのデザインを一任されるということは、デザイナー多しといえども、なかなか体験できないのではないかと思います。

栗崎「平野さんにかなり締め上げ……鍛えていただきましたが(笑)、最初に決めたのは、何があっても決して自分から〈辞めます〉とは言わないこと。その選択肢はない。とにかく平野さんから届くストレートで厳しい感想を羅針盤にしながら、ちょっとずつ前に進み、着実にブラッシュアップしていこうと」