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ポップ・ミュージックの力を信じている

 同性同士のラヴソングをダンス・サウンドで表現することは、10代の頃にロミーがクィアのクラブに通っていたことに大きな影響を受けている。当時の体験について、彼女はこんなふうに振り返った。

 「ロンドンのソーホーにある〈ゲットー〉というクラブで、初めて入ったときのことをいまでもはっきり覚えているよ。そのとき16歳だったから本当はクラブに入れない年齢なんだけど(笑)、すごく興奮した。私はすごくシャイだったから端のほうに立ってたんだけど、フロアにいる人たちはみんな自由かつオープンにセクシャリティーを表現していて、すごく勇気づけられた。そこでかかっていたのは誰でも知っているようなポップスだったんだけど、それが皮肉めいた形ではなくて、純粋に楽しめるものとしてシェアされていたのがすごく良かった。私もポップ・ミュージックが素直に大好きだから」。

 『Mid Air』はクラブ・オリエンテッドなだけでなく、ポップな歌も魅力。その点もクィアのクラブ・シーンへの想いが込められているのだろう。

 「このアルバムがポップに聴こえるのならすごく嬉しい。というのは、私もヴォーカルがメインになっているダンス・ミュージックをすごく好きだから。みんなが一緒に歌えるようなエモーショナルな曲だよね。私は夜クラブに行って踊ったり遊んだりするのが好きだから、その経験自体がインスピレーションになっているね」。

 ポップなダンス・ミュージックが詰まった『Mid Air』は、ロミーがクィアのクラブ・シーンで自分自身を解放した経験をふまえて、改めてダンスフロアとクィア・コミュニティーに愛と祝福を捧げるアルバムだ。現在、世界中でクィアへのバックラッシュや攻撃が激化しているなかで、ロミーはそれでもポップ・ミュージックにできることはあると話してくれた。

 「ポップ・ミュージックは大衆音楽というだけあって、やっぱりプラットフォームとして大きいよね。届く人の範囲が広いのは、すごくパワフルなことだと思う。だからメインストリームで私の歌のようなクィアのストーリーを広げることができれば、すごく影響があるんじゃないかな。たとえば“The Sea”では〈私は彼女に恋に落ちた〉と歌っているから、ラジオで聴いた人がレズビアンの愛を歌った曲だと気付いて、クィアネスの普遍化に繋がっていけばいいなと思う。そうなれば私のやっていることに意味があると思うし、より多くの人を安心させることにもなると思う。私自身もポップ・ミュージックのファンとして、音楽が人と人とをコネクトする力を信じているから」。

ロミーが参加した近年の作品。
左から、ホールジーの2020年作『Manic』(Capitol)、ジェニー・ベスの2020年作『To Love Is To Live』(20L07 Music)、マーク・ロンソンの2019年作『Late Night Feelings』(RCA)、キング・プリンセスの2019年作『Cheap Queen』(Zelig)

『Mid Air』に参加したアーティストの作品。
左から、フレッド・アゲインの2022年作『Actual Life 3 (January 1 - September 9 2022)』(Atlantic UK)、コアレスの2021年作『Agor』(Young)、ビヴァリー・グレン・コープランドの2019年作『Primal Prayer』(ORG/Transgressive)、アヴァロン・エマーソンの2023年作『The Charm』(Another Dove)