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©Tadashi MIyamoto

チェット・ベイカーやキース・ジャレットとの交友

──テリーさんとジャズとの関わりについて、今回の作品とは直接関係ないのですが、お聞きしておきたいことがいくつかあります。まずは、チェット・ベイカーとの共演から生まれた異色の作品『Music For The Gift』(1963年)について。

TERRY RILEY 『Music For The Gift』 Organ Of Corti(1963)

「1960年代の初め、2年ほどパリに住んでいました。アメリカ人ベーシストに誘われて、パリやその周辺でフロアショーやダンスショーで演奏していたんです。そのベーシストと私がピンボールをしていたとき、そこで遊んでいたチェットと出会ったんです。

その頃、ケン・デューイという脚本家の演劇プロジェクト〈The Gift〉に私たちは誘われていて、チェットも参加することになりました。そのタイミングが完璧だったんですよ。なぜなら彼は1週間前に刑務所から出てきたところでしたから(笑)。私は彼がパリに流れ着いた直後に出会ったんです。

彼はその舞台用のカルテットに参加することに同意し、レコーディングする許可も得ました。舞台では演奏と同時に役者たちも演技をしていて、音楽に反応して演技やダンスも変化していきました。チェットにとっては新しい体験で、最初のうちはとても困惑していましたね」

1963年作『Music For The Gift』収録曲“Music For The Gift: Part 1”

──テープループを駆使した実験的な作品となったのは、なぜでしょう?

「その頃、私のなかで道徳的な変化が芽生えていて、録音した演奏に色彩の変化を加えたくなったのです。テープをループさせて、元の演奏とは違う形にリアレンジしようと思いつきました。それで、パリのラジオ局のスタジオで、個々のプレイヤーの演奏を別々に録りました。そのループを組み合わせて作ったトラックをバックで流しながら、実際の舞台でのカルテット演奏と組み合わせたんです。それがあの作品になりました。

私たちはみなあの頃、おかしなことをしていたんです。でもチェットはこの取り組みに同意したし、やり遂げた。おかげで素敵な作品になりましたよ。素晴らしいでしょう? 彼自身は極めてオープンマインドで、実験を厭わない人間だったんです。

彼は刑務所にいる間、人生について深く考えていたんです。トランペットを牢獄に持ち込むことが許されたので、練習できたのも良かったようです(笑)」

──もっと後年ですが、キース・ジャレットとの交友はどんなものでしたか?

「1990年、私たちは同じブルックリン交響楽団のプロジェクトに関わっていたんです。キースは作曲家ペギー・グランヴィル=ヒックスのピアノ協奏曲にピアニストとして参加していました。その週末、私たちは三夜を共にし、お互いについてよく知ることができたんです。

そうだ、だから彼も私が深く敬愛するピアニストのリストに加えなくてはいけませんね。彼も他に類する者がいないタイプなんです。彼も即興のソロピアノコンサートをたくさん行い、素晴らしいパフォーマンスを残しました」

 

©Sara Miyamoto

今は日本が私の場所

──これは近年の、そして日本での出来事ですが、2021年11月に静岡県掛川市で開催された〈FESTIVAL de FRUE〉にテリーさんは出演されました。そのときはお弟子さんの宮本沙羅さんとのデュオセットに加え、大野由美子さん(Buffalo Daughter)、勝井祐二さん(ROVO)、角銅真実さん、サム・アミドンさんが次々に舞台に出てくるセッションという、全部で2時間弱の演奏でした。現場で見ていて、まさに〈音楽が生まれる瞬間〉を感じ、とてもスリリングでした。テリーさんはどう感じられたのでしょう?

「〈FRUE〉は、私が参加したフェスティバルでもベストのひとつです。あの日のステージにリハーサルはありませんでした。私がやりたいと思うことを自由にやり、誰もが思うままに参加したんです。すべての演奏は即興でした。後半のセッションでは10分ごとにプレイヤーが加わることだけが決まっていて、演奏している私たちは振り返ってみるまで誰が出てきたのかわからなかった。素晴らしい体験でしたね」

テリー・ライリー&宮本沙羅の2022年のオンラインライブ動画

──それにしても、テリーさんの日本での生活は4年目に入りました。もはや〈長期滞在〉というより〈定住〉のようになじんでいらっしゃると感じています。まだ日本には〈未知〉はたくさんあると感じていらっしゃいますか?

「もちろんです。まだ日本について学ぶべきことはたくさんあります。学び足りることなどないのです。

そして、今の場所は私の音楽にとって歓迎すべき環境だと感じています。日本は私にとても良くしてくれています。日本で小さなマンションに暮らしている今このときほど、満足できる環境にいたことはありません。それは私にとって驚きではなかったのです。以前から来日するたびに私の音楽を世界のどこよりも理解してくれていると感じていましたし、日本を近しく思っていました。

もはや私にとってアメリカとの関わりはなくなりました。45年間暮らしたアメリカの家も売り払いました。今はここが私の場所なんです。今も毎日作曲をして、新しい音楽を作り続けていますよ」

──最後に、今回のアルバムには〈#1〉というナンバリングがタイトルにあります。今後もこのシリーズは続くのでしょうか? あるいは、すでに非公開で何度も行われていて、それがリリースされるのでしょうか?

「たぶん、次に〈小淵沢セッション〉を出すとしてもスタンダード集にはならないかもしれません。オリジナル曲を収録した〈#2〉をそのうち出せるのではないでしょうか」

 


RELEASE INFORMATION

TERRY RILEY 『Terry Riley STANDARDⓈAND -Kobuchizawa Sessions #1-』 STAR/RAINBOW RECORDS 星と虹レコード(2023)

リリース日:2023年10月4日(水)
品番:SHIGERU-001
フォーマット:CD
CD購入者共通特典:初回プレス盤限定 封入特典ステッカー(5cm正方形角)
タワーレコード購入者オリジナル特典:非売品ポストカード特典
価格:3,000円(税込)
全10曲/インストゥルメンタル音源収録
※デジタルリリースの予定は現時点では未定となっております

TRACKLIST
1. Isn’t It Romantic? ※カバー曲(オリジナル:Lorenz Hart/Richard Rodgers)
2. Blue Room ※カバー曲(オリジナル:Lorenz Hart/Richard Rodgers)
3. The Best Thing for You (Would Be Me) ※カバー曲(オリジナル:Irving Berlin)
4. ’Round Midnight ※カバー曲(オリジナル:Bernard D. Hanighen, Thelonious S. Monk & Charles Cootie Williams)
5. Ballade for Sara & Tadashi (Piano) ※オリジナル曲
6. Pasha Rag ※オリジナル曲
7. Ballade for Sara & Tadashi (Synth) ※オリジナル曲
8. Yesterdays ※カバー曲(オリジナル:Jerome Kern/Otto Harbach)
9. It Could Happen To You ※カバー曲(オリジナル:Jimmy Van Heusen/Johnny Burke)
10. Gotcha Wakatcha ※インプロビゼーション・オリジナル曲

録音:2020年3月11日〜13日
マスタリング:2023年

 

LIVE INFORMATION
さいたま国際芸術祭2023
2023年10月7日(土)埼玉・大宮 旧市民会館おおみや
〈さいたま国際芸術祭2023〉のオープニング公演として。
※メイン会場入館チケット(1DAYチケット・フリーパス)に加え、公演予約チケット(無料)のご提示が必要
https://artsaitama.jp/events/f_xrnqs1eq/

AMBIENT KYOTO
2023年10月13日(金)、14日(土)京都・東本願寺 能舞台
Corneliusら参加のイベント〈AMBIENT KYOTO〉の一環として。普段は一般非公開である能舞台での立体音響ライブ。
https://ambientkyoto.com/news/x0o8kkzn

MUSIC FUTURE
2023年10月31日(火)、11月1日(水)東京・紀尾井町 紀尾井ホール
テリー・ライリーを人生の師と仰ぐ久石譲氏の現代音楽作曲家としてのライフワーク〈MUSIC FUTURE〉の10周年の特別ゲストとして。書き下ろし曲も演奏予定。
https://joehisaishi-concert.com/mf-vol10/

 


PROFILE: TERRY RILEY
作曲家・音楽家。1935年6月24日、米カリフォルニア生まれの88歳。昔も今も、そして未来も常に新しく独創性に溢れる音楽を作り続ける音楽界の大巨匠。初期の名盤『In C』(1964年)はミニマルミュージックの金字塔として輝き続け、『A Rainbow In Curved Air』(1969年)はサイケデリックを代表する不朽の名盤となり、その後登場するアンビエントミュージックにも大きな影響を与えている。またレイヴパーティーの原型となった〈All-Night Concert〉の開催や、インド音楽から影響を受けた彼の作品はサンプリング/ループの原型となってクラブカルチャーにまで影響を及ぼすなど1960年代から行ってきた革新的な音楽活動はジャンルを超え、今なお世界の音楽シーンの礎であり未来を照らす光となっている。横尾忠則、久石譲、ジム・ジャームッシュなど、大ファンであることを公言している表現者は数多い。2020年より山梨県在住。鎌倉で月に一度、ラーガ教室〈KIRANA EAST〉を行っている。