祝! 日本で迎える88歳――「ピアノの鍵盤の数と同じになるね!」

 常にミニマリズムに欠かせない存在として語られ、600年続くインド古典音楽のラーガを継承し独自の道を歩む、アメリカ実験音楽のパイオニア、テリー・ライリー。2020年、パンデミックにより日本で足止めを食らい、山梨で長期滞在を決意。日本でむしろ創作活動は活発化、最高齢でのFUJI ROCK FESTIVAL出演を果たすなど、話題にも事欠かない。今年6月には88歳のバースデー・コンサートが予定され、世界にその健在ぶりを示すだろう彼の近況とは。


 

──生誕88歳を記念するバースデー・コンサートが水戸芸術館で開催されます。

「88。鍵盤の数と同じですね。その意味でもこの誕生日は特別な一日です。アメリカからのお客さんも来て欲しいですね。とてもめでたいイヴェントになるでしょうし、皆さんにとっても本当にハッピーな公演になるといいですね。良い音楽を創ってみせますよ」

──70年代から日々修行を続けているラーガの重要性とはなんでしょう?

「ラーガはインドの古典音楽ですが、音楽家としての基礎を育むのにとても良いと感じています。旋律にとても細かな音程を含み、音楽家はそれを明確に聞き取る必要があります。他の歌い手のフレーズを真似てみたりして音楽性を高めるだけでなく、耳をしっかり鍛えないと、ちゃんと歌うことはできません。皆さんもラーガを深く学んでいけば、西洋音楽には無い音の色合い、陰影のようなものまで聞き分けられるようになりますよ。私の師匠だったパンディット・プラン・ナートは、非常にゆっくりとしたテンポで歌うことに重きを置いていました。他の人であればとても早く歌われる箇所も長く引き伸ばして歌っていたので、メロディ・ラインの微細なディテールも聞き取れるわけです。彼のスタイルは所謂超絶技巧的なそれではなく、インドの古い巨匠が歌ったような、細部により注意が払われた、祈祷の音楽です。そこでは時間が静止しています。ただ同時に音楽は、それを奏でる人そのものを表すものでなければいけません。私には、ジャズなどに見られるような類の即興スタイルもありつつ、私独自の即興スタイルというものが必要なわけです。私がラーガを自分の音楽に持ち込もうとしたのにはそういう理由もあります」

──様々なスタイルの作曲も魅力的ですが、自身の即興に重きを置くのはなぜでしょう?

「即興というのは、リアルタイムで〈音楽する〉ということです。私はずっと音楽家としてそのように在り続けてきました。小さい頃から〈耳〉で演奏する事を好みました。よく、ラジオから流れてくる音楽を耳コピーしようと頑張ったものです。私にしてみれば、即興とは自然に音楽が生まれる場です。また様々なアイディアを伝え合うにも、即興こそが一番ダイレクトな方法だと思っています。譜面にいちいち書き起こせないような事も即興では可能となりますし」

──来場するお客様へ一言お願いします。

「所謂ミニマリズムとか、自分特有の何かとか、周囲に期待されたり予想されうるような事に囚われないようにしています。いつも開かれた状態で居たいのです。自分でも予期しえない驚きの数々こそが、音楽を演奏する上で一番面白い要素なのですから」

 


LIVE INFORMATION
テリー・ライリー 88th バースデー・コンサート
2023年6月24日(土)茨城・水戸芸術館 コンサートホール ATM
開場/開演:16:30/17:00(終演予定18:00)
出演:テリー・ライリー(キーボード/ヴォーカル)

■料金
一般/U-25(25歳以下):3,000円/1,000円(いずれも全席指定)
※U-25チケットの取り扱いは水戸芸術館のみ
●チケット好評発売中

主催:公益財団法人水戸市芸術振興財団
〒310-0063 茨城県水戸市五軒町 1-6-8
TEL:029-227-8111
https://www.arttowermito.or.jp/