6. 田中健 “ライラック街の秋”
唯一の男性シンガー枠に選ばれたのが俳優の田中健。大野がプロデュースと全編曲を手掛け、演奏をエクスプロージョン・バンドが担当したアルバム『フラッシュバック』（78年）の収録曲で、エレピとサックスが映えるアーバンミディアムグルーヴ。
大野雄二の歌謡曲フィールドでの仕事はいまだ十分に検証されているとは言い難いので、こうした隠れた好曲がコンピに収録されることの意義は大きい。
ちなみに大野はなぜか男性俳優との仕事が多く、大学の盟友だった石坂浩二をはじめ、伊丹十三、松田優作、あおい輝彦、岩城滉一、林隆三など枚挙にいとまがない。
7. 弘田三枝子 “I Want To Be Happy”
ミコこと弘田三枝子は和製ポップス～歌謡曲のイメージが強いかも知れないが、ジャズシンガーとしても稀有な存在だった。
大野と鈴木宏昌がアレンジを分担した73年のアルバム『Jazz Time』に収録されたこの曲では、猛烈にスピード感のある演奏に乗せてミコの自由自在なボーカル&スキャットが駆け巡って圧巻の一言。先のしばたはつみとアン・ヤングの選曲も踏まえると、『TOUCH』の編者はハイテンポのジャズボーカルこそ大野サウンドの真骨頂だと捉えているのかもしれない。
なおミコの83年作『TOUCH OF BREEZE』も大野がプロデュース&全作曲（カバー以外）を手掛けた歌謡サイドの良作である。
8. Electro Keyboard Orchestra “The Soaring Seagull（海猫）”
大野をはじめ、佐藤允彦、鈴木宏昌、羽田健太郎ら8人の一流鍵盤奏者が20台のシンセサイザーを使用して実験的なセッションを繰り広げたアルバム『Electro Keyboard Orchestra』（75年）は、和製エレクトリックジャズの逸品として海外でも再評価著しい。大野が提供したオリジナル2曲のうち“Mayflower”は、ソロ名義の『Sound Adventure Act. 1』（75年）や『Space Kid』（78年）などでも再演されたバラードだが、ここではよりドープで尖った演奏が展開されるこちらのナンバーがセレクトされている。
9. しばたはつみ “もう一度聞かせて”
最後は再びしばたはつみ。作詞をしばた本人、作編曲を大野が手掛けた1曲で、松木恒秀の甘美なトーンのギターと軽やかなフルート、タイム・ファイブの洒脱なコーラスに彩られた素晴らしいバラード。アルバム『シンガーレディ』（75年）はファンキーな表題曲が有名だが、コンピレーションのクロージングナンバーとしてはこちらの方が適当だし、意図したのかはわからないが”もう一度聞かせて”というタイトルも幕引きに相応しいように思える。
「ルパン三世」「犬神家の一族」の次の指針になるアルバム
先に書いたように本作は海外マーケットを意識したコンピではあるが、もちろん私たち日本人が聴いても十分に興味深い内容である。とくに「ルパン三世」や「犬神家の一族」は知っているけど次に何を聴けばいいのか迷っているというリスナーにとっては、大きな指針を与えてくれるアルバムになるだろう。
大野雄二は長い活動歴のなかで数限りない楽曲を世に送り出してきたが、「ルパン三世」シリーズ以外の音源を総括的にまとめた編集盤は『大野雄二 BEST ～COLUMBIA EDITION～』のわずか1枚しかリリースされていない。願わくば『TOUCH』の発売を機に、国内外問わずさまざまな切り口によるセレクションアルバムが多く編まれることを心より期待したい。
RELEASE INFORMATION
リリース日：2023年10月25日（水）
品番：COCP-42090
価格：2,420円（税込）
TRACKLIST
1. サブタレニアン二人ぼっち／佐藤奈々子『Funny Walkin’』（1977）
2. 愛のシルエット／You & The Explosion Band『ルパン三世 オリジナル・サウンドトラック』（1978）
3. I Wish You Love／しばたはつみ『Love Letters Straight From Our Hearts』（1977）
4. きらめくインナースペース／大野雄二&ギャラクシー『キャプテンフューチャー音楽集』（1979）
5. Speak Low／アン・ヤングと大野雄二トリオ『As Well Be Spring（春の如く）』（1975）
6. ライラック街の秋／田中健『フラッシュバック』（1978）
7. I Want To Be Happy／弘田三枝子『Jazz Time』（1973）
8. The Soaring Seagull（海猫）／Electro Keyboard Orchestra『Electro Keyboard Orchestra』（1975）
9. もう一度聞かせて／しばたはつみ『シンガーレディ』（1975）
