
エムトゥーメはジャズとヒップホップを繋いだ大切な存在
――2枚目に選んだのは、エムトゥーメ『Juicy Fruit』(1983年)です。

「これを選んだのには2つの意味があって、ひとつはジェームズ・エムトゥーメはもちろん※、彼の父親であるジミー・ヒースへのリスペクトも含んでいるんだ。ジミー・ヒースはマイルスや(ジョン・)コルトレーンともならぶジャズレジェンドだと思う。
2つ目の理由は、エムトゥーメはトラディショナルなジャズの世界と若いヒップホップの世代を繋いだ存在だと思うんだよね。“Juicy Fruit”は本当にたくさんのアーティストにサンプリングされていて、ビギー(ノトーリアス・B.I.G.)も“Juicy”(1994年)でサンプリングしてるよ。エムトゥーメはこういったヒットレコードも作りながら、一方ではアバンギャルドなジャズ作品も作っている。だからこそ大切な存在なんだよ」
――エムトゥーメを知ったのはサンプルネタが最初ですか?
「そうだね、最初はサンプルネタとして知った。ジャズミュージシャンとして認識したのはその少しあと、自分がドラマーのビリー・ハートに師事していたときに、ビリーから彼のことを教わったんだ。ビリー・ハートはハービー・ハンコックとも演奏していたし、エムトゥーメとも演奏してたから、そこですべてが繋がったんだよ」
――ハービーも同じくヒップホップとジャズを繋ぐようなプレイヤーですよね。
「そういう役割をはたしたミュージシャンはたくさんいるよね、ドナルド・バードとか。
ハービーに影響を与えたのもエムトゥーメで、ハービーの『Mwandishi』(1971年)ってアルバムがあるだろ? あのアルバムではハービーのバンドメンバーそれぞれにアフリカンネームがついているんだけど、あのアフリカンネームをつけたのがエムトゥーメなんだ。彼は黒人運動の中心となった存在なんだよ」

クール・キースには非常に影響を受けている
――3枚目は趣向を変えてヒップホップのレコードです。

「ウルトラ・マグネティック・MC’sは、ラッパーのクール・キースを中心として結成されたグループで、クール・キースは他にも沢山の名前を持ってるんだ。独特のラッパーで、彼が作る音楽には非常に影響を受けているよ。このグループについてはクール・キースの原点だと知ってから勉強したんだけど、もっと知られていいグループだと思うね」
――時代としては90年代?
「この作品(1992年作『Funk Your Head Up』)は90年代初頭だね。
けど、クール・キースは90年代から2000年代にかけてドクター・オクタゴンの名前で活動していて、そっちの名前のほうが知られているかも。ドクター・オクタゴンでクール・キースといっしょに組んでいたプロデューサーのダン・ジ・オートメイターもヤバいんだ。彼らは前衛的すぎて、当時はあまり知られていなかったかもしれないね」
