ジャズがヒップホップを再構築――オーバーダブや編集は一切しない、衝撃の一発録り
インストアルバム『CREAM』をリリース!

 リアル・ジャズとヒップホップを思うまま繋ぐ逸材ドラマー/クリエイターであるカッサ・オーバーオールが、ついにその真価を10倍増しにしたような新作をリリースした。ヒップホップ曲をオーヴァーダブなしの生バンド・サウンドで開く、その『CREAM』は英国のワープからの2作目となる。

 「ワープはエレクトロニック・ミュージックのレーベルとして知られているけれど、同時にとても実験的な音楽を発信しているレーベルでもある。だから、エレクトロニックの実験的な音楽に対してオープンな人なら、別のジャンルの実験的な音楽にも耳を傾けてくれるんじゃないかと思うんだ。これまで長いことジャズの世界に閉じ込められていたような感覚もあったから、そこから抜け出して別のフィールドで活動できるのはいい。ジャズの世界にまた閉じ込められてしまうんじゃないかという心配をしなくてもいいから」

KASSA OVERALL 『CREAM』 Warp/BEAT(2025)

 新作では、ザ・ノトーリアスB.I.G.、ディゲブル・プラネッツ、ジュヴィナイルらヒップホップ曲のオーバーオール・ヴァージョンがずらりと並ぶ。基となるそれらは、皆1990年代の曲だ。

 「どの曲も本当に、自分が子どもだった時代にインスピレーションを与えてくれた音楽へのオマージュなんだ。小さい頃、自分を突き動かしてくれた曲群であり、聴くと当時の感情に引き戻されるものばかりなんだよね。そして、オリジナルの楽曲を愛している人たちにとっても〈えっ、こんな解釈になるのか!〉って、ちょっと驚かせられるような作品にしたかった」

 そして、オープナーはソウル派テナー・サックス奏者として名高いエディ・ハリスの有名爽快曲“フリーダム・ジャズ・ダンス”を取り上げ、鋭意改変している。

 「あの曲は〈クラシックなジャズ・レコード〉と呼べるような唯一の曲だね。でも、僕たちがやったのはその逆で、クラシックなジャズのナンバーにバスタ・ライムス的な要素を持ち込んだ。だから、他の(ヒップホップのカヴァー)曲とは真逆のアプローチなんだ。僕としては、あの曲は一種の〈ソング・ポエム〉だと思う。〈フリーダム〉という言葉を僕たちは文字通りに受け取り、自由を駆使してみた」

 〈元曲の担い手の機知〉、〈ジ・アイズリー・ブラザーズやアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズといったサンプリング・ソースとなるアーティストの魅力〉、そして〈オーバーオールたちの創造性〉というトライアングルが立体的に重なり、鮮やかに飛翔するような感興が『CREAM』には渦巻く。結果、同作は現代ジャズの一つのあり方を指し示す、2025年屈指の作品に仕上がった。

 「もしそう思ってもらえるなら、僕にとってはラッキーだね。トライアングルという考え方もとても良いと思うけど、僕自身の捉え方はサークルに近いんだ。三角形も突き詰めれば円のようなものでしょ? そういう意味では似ているのかもしれないね。たとえばヒップホップの曲が90年代に生まれたとして、その元になったサンプルが70年代の音楽だとする。さらに僕がそこに持ち込むスタイルやフィーリングの美学を辿ると、それは50年代の感覚だったりする。そうやって時間を遡ることで、サンプリングの元になった曲よりも前の時代へと戻っていけるんだ。そういう時間旅行があるからこそ、逆に未来へと推し進めていけるんだと思う。円のような循環の力は、新しいエネルギーを生んでくれるからね。それで、僕らはまた新鮮なものを生み出せるんじゃないかな」

 


Kassa Overall
グラミー賞にノミネートされたジャズ・アーティストであり、ドラマー、MC、シンガー、プロデューサーとしても活躍。米シアトルに生まれ、現在はNYを拠点に活動を展開。ジェリ・アレン、ジョン・バティステ、スティーヴ・コールマンといった著名アーティストとの共演・録音歴を持ち、プロデューサーとしてシオ・クローカー、アート・リンゼイ、ダニー・ブラウンらの作品に参加した。20年以上にわたってジャズ・シーンの先鋭として活躍している。