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浜崎容子(アーバンギャルド)

平成最後の稀代のウソつき野郎、令和になって過去がカムバック。21世紀の自己愛性人格障害、最終兵器スパンクハッピー。
何年経ってもサウンドはシャンパンの泡のようにキラキラとまぶしく、岩澤瞳さんの声はただ美しく、成孔さんの言葉はきっと誰もが一度は羨望のまなざしを向けた街中ですれ違う高級外車なのだろう。
私たちの国は相も変わらず街中に裸の女の子の写真が溢れていて、年間何億円プレイヤーという男の子たちのトラック走ってる。
アリスとロリータはファーストフードはもう食べない、SNSの世界でしか美少女は見ない。家出した少女は帰ってこない。
今夜も高級ホテルのフレンチのテーブルに座って、年寄りばっかり狙ってる。歌舞伎町にいた成孔さん、この現象はなんと呼びますか?
あの女の子は友達の彼とキスした夜は、いつもリストカットしてた。
カッターナイフはまだまだ必要だと思っていたけど、真っ白な肌に薔薇と宝石を刻むことにした。そうすれば永遠に枯れずに輝けると思ったらしい。
どうしていなくなってはまたあらわれるのスパンクハッピー、馬鹿野郎。
そうやっていつもかき乱す稀代のペテン師菊地成孔。どこへいったの岩澤瞳。
あなた方の事を考えると、死ぬほどうっとりして、死ぬほど憂鬱になるの。
フィジカルでしか見つけられなかったあなたたちをサブスクで見つけられるなんて絶対に間違ってる。
でも死ぬほど羨ましい。そして死ぬほど嬉しい。
あたしはこんなに死ぬほど羨ましくて、死ぬほど嬉しくて、死ぬほど退屈。

PROFILE: 浜崎容子(アーバンギャルド)
アーバンギャルドのボーカル。2008年に『少女は二度死ぬ』でデビュー。作詞作曲編曲もこなす。2019年、角松敏生氏プロデュースの『BLIND LOVE』をリリース。菊地成孔氏も作詞で参加。その後は幅広いアーティストに楽曲提供をおこない、セルフプロデュースで4冊の写真集などを発売。〈自分を赦す服〉をコンセプトにアパレルブランド〈FORGIVE ME〉もプロデュース。そのほか「Let’s天才てれびくん」にて声優活動、CMソングでの歌唱、作家として「バラ色の人生」などを発刊。

 

姫乃たま

『戦前と戦後』リリース記念のトークイベントで、サプライズのバースデーケーキに踵落とししようとしていた菊地成孔さんを見たので、あまり誕生日にまつわる祝い事に興味がない(というか嫌い)のかなと思うのですが、還暦おめでとうございます。

私に第二期SPANK HAPPYの音源をプレゼントしたのは、SPANK HAPPYのカヴァー・ユニットJUMEAUX OBSCENES(フランス語で〈猥褻な双子〉の意。菊地さんから授かった候補名〈JUMEAUX JEU〉と〈OBSCENE JUMEAUX〉から命名)の松村謙一郎さんでした。大人が手の込んだカヴァー・ユニットをやる気になったり、本人に命名してもらうための行動力を発揮したり、第二期SPANK HAPPYっていうのは一体どんな魔法を持っているのだろうと思ったものです。

ちなみに第一期SPANK HAPPYの『FREAK SMILE』をプレゼントしてくれた男性は、もともと自販機補充員をしていて、これがあまりにお金が貯まるので、老後の仕事にすることにして、若いうちは〈菊地成孔に近い仕事をする〉ために「クイック・ジャパン」に転職して編集者になった人です。SPANK HAPPYの楽曲には、人生を変えてしまう力があるようです。

私が第二期SPANK HAPPYを聴いたのはテン年代のことなので、岩澤瞳さんというのは菊地さんの残したテキストと、ジャケットの写真と、音源の声しか知ることができない、私にとってはヴァーチャル・アイドルの先駆けみたいな存在でした。

そして私の人生がどう変わったかというと、ここに寄稿している人はそんな人ばかりだと思うのですが、ほどよいソファを見かけると、“インターナショナル・クライン・ブルー”のジャケットの真似をして写真を撮るようになりました。ははは。

第二期SPANK HAPPYがストリーミング配信されるということは、インターネットで自分の病気を告白することに躊躇ない世代にも、アルゴリズムで届くようになるってことなんですね。人生を持て余して新宿に遊びに来ているような子が、メジコン決めて舞台に立つミュージシャンになる……かどうかは、わかりませんが、また誰かの人生が変わるんだろうなと思います。

PROFILE: 姫乃たま
ライター、歌手。93年、東京都生まれ。10年間の地下アイドル活動を経て2019年にメジャーデビュー。同年4月に地下アイドルの看板を下ろし、現在は文筆業を中心に音楽活動をしている。2015年、現役地下アイドルとして地下アイドルの生態をまとめた「潜行~地下アイドルの人に言えない生活」(サイゾー社)を出版。著書に「永遠なるものたち」(晶文社)、「周縁漫画界 漫画の世界で生きる14人のインタビュー集」(KADOKAWA)など。音楽活動では作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『パノラマ街道まっしぐら』『僕とジョルジュ』などがある。
オフィシャルサイト:http://himenotama.com/

 

松永天馬(アーバンギャルド)

ねえスパンクハッピー
お手紙書くのははじめてなの
わたしはあなたのファンです
今も手が震えているの

ねえ二期スパンクハッピー
わたしは女の子
中年男性の皮を被った女の子
おじさんの内面に潜む不在の少女
四十一歳男性の仮面を被った
家電メーカー勤務 二十二歳の女の子

2005年にあなたと出会ったとき
あなたたちは既にこの世に(ほぼ)いなかった
ステージでの立ち位置に悩んでいたわたしは
あなたたちのアルバム
『Computer House of Mode』
を見て目覚め そして知ったの
女の子と歌い踊ることで
成人男性も女の子になれるんだってことを
その逆だってあったかもしれない

あなたは菊地成孔さん
岩澤瞳さん
どちらでもあってどちらでもない
男性/女性の皮を被り
銀盤上でそれを剥ぎ取り
かたくなにユニゾンすることで一体化する
アンドロギュノスのようなけもの

わたしもそれになりたいと思った
浜崎容子という片割れを見つけ
アーバンギャルドと名乗ったの
ステージで歌いつづけたの
香水を振りかけて
汗をかかずに踊ったの

あれから凡そ二十年
あなたたちにとってのあなたたちは
決して「青春」ではなかったかもしれない
だけどわたしにとっては
それ以外の何物でもない
「青春」でしかなかったの

「わたしたちの青春はあなたのものです」

今夜もライヴが始まるわ
それじゃまたね キスします

I LOVE YOU I LOVE YOU I LOVE YOU
(凡そ二十年分の) I LOVE YOU...

PROFILE: 松永天馬(アーバンギャルド)
音楽家、詩人、ときどき俳優、映画監督。アーバンギャルドのボーカル、コンセプターとして2008年に『少女は二度死ぬ』でデビュー。全ての歌詞を担当し、ポップかつ実験的、独自の言語世界を構築。2017年より『松永天馬』でソロデビュー。上坂すみれ、新しい学校のリーダーズなど数々のアーティストに作詞・楽曲提供も行っているほか俳優として「Let’s天才てれびくん」「リコカツ」などに出演。作家として「自撮者たち」などを上梓。

 


RELEASE INFORMATION

SPANK HAPPY 『インターナショナル・クライン・ブルー』 ベルウッド(2001)

リリース日:2001年11月26日
配信リンク:https://lnk.to/InternationalKleinBlue_SPANKHAPPY

TRACKLIST
1. インターナショナル・クライン・ブルー
2. ジャンニ・ベルサーチ暗殺
3. French kiss

 

SPANK HAPPY 『ANGELIC』 ベルウッド(2002)

リリース日:2002年4月26日
配信リンク:https://lnk.to/ANGELIC_SPANKHAPPY

TRACKLIST
1. ANGELIC
2. 拝啓ミス・インターナショナル
3. アンニュイ・エレクトリーク

 

SPANK HAPPY 『Computer House of Mode』 キング(2002)

リリース日:2002年9月4日
配信リンク:https://lnk.to/ComputerHouseofMode_SPANKHAPPY

TRACKLIST
1. FRENCH KISS
2. フォーエヴァー・モーツァルト
3. ジャンニ・ヴェルサーチ暗殺
4. EINE SYMPHONIE DES GRAUENS
5. SWEETS
6. Riot in chocolate logos
7. たのしい知識 / Le gai savoir
8. Theme song under the cloudy heavens
9. 麻酔
10. ホー・チ・ミン市のミラーボール

 

SPANK HAPPY 『Vendôme, la sick KAISEKI』 キング(2003)

リリース日:2003年12月3日
配信リンク:https://lnk.to/VendomelasickKAISEKI_SPANKHAPPY

TRACKLIST
1. FAME
2. chic / シック
3. Vendôme, la sick KAISEKI / ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ
4. Les enfants jouent à la russie / 子供達はロシアで遊ぶ
5. le capitalisme est encore valable / 資本主義は未だ有効である
6. Un monstre élégant / エレガントの怪物
7. vacances noires / バカンス・ノワール48℃
8. L.bylon’s dead bass lines / 午前4時のティー・パーティー
9. PHYSICAL
10. De venus à antoinette / ヴィーナスからアントワネットまで

 

菊地成孔, 岩澤瞳 『普通の恋』 Viewsic Discs(2004)

リリース日:2004年1月28日
配信リンク:https://lnk.to/FutsunoKoi_SPANKHAPPY

TRACKLIST
1. 普通の恋
2. フロイドと夜桜

 

■Music Video
“ANGELIC”
リリース日:2002年4月26日

“SWEETS”
リリース日:2002年9月4日

“Vendôme, la sick KAISEKI”
リリース日:2003年12月3日