耳を傾けたくなる歌
それらメロドラマ調の大仰なバラードが彼女の持ち味だと思われそうだが、アルバム『GUTS』においては、ローファイなインディー・ロック魂が全開の“bad idea right?”や“ballad of a homeschooled girl”などの新たな魅力も加わった。怒りを迸らせるにはギター・ロックが有用なのだ。このあたりの巧さは、共作/プロデュースを手掛けるダン・ニグロによる手腕も大きいと思われる。アズ・トール・アズ・ライオンズというインディー・ロック・バンド出身の彼は現在40代。プロデューサーとしてコナン・グレイやキャロライン・ポラチェックなども手掛け、今回のグラミーで年間最優秀プロデューサー部門にノミネートされてもいる。彼女とよく比較に挙がる大先輩のアラニス・モリセットにグレン・バラードがいたように、フィオナ・アップルにアンドリュー・スレイターがいたように、ダンが有能な水先案内人として、しっかりオリヴィアを導いているのだ。80~90年代グランジ・ロックを彷彿とさせるオルタナティヴ/ガレージ的な肌触りが、これほど上手くポップソングの中で活かされている例も珍しい。ポップなメロディーと、ささくれ立った痛快なギターの音色がディール姉妹率いるブリーダーズを想起させるなと思っていたら、2024年2月からスタートするオリヴィアの〈Guts World Tour〉のNYやLA公演には、ちゃっかりブリーダーズもスペシャル・ゲスト出演が予定されている。至極納得だろう。
先日はアメリカの人気TV番組『サタデー・ナイト・ライヴ』に音楽ゲストとして出演。ピアノを弾きながらシンプルだがドラマチックな美声で“vampire”を披露した。かと思えば“all-american bitch”では、ケーキまみれになって、ストロベリーの赤い血糊をベッタリ付けてロック・スピリットを迸らせた。これがツッパリ女子やタトゥーだらけのロッカーだったら、却ってありきたり。こんなに共感を呼び覚ますことはないだろう。ごく普通の20歳が歌っているから、ぶちまけられる言葉に耳を傾けたくなる。同世代の誰もが感じていることを、言葉にし、歌にし、音楽で代弁してくれる。これほど才能があり、スター性があって、ルックスに恵まれていても、たっぷり悩みや自己嫌悪を抱えている。リスナーと変わらないそんな姿に誰もが共感し、安心し、そっと癒されるのだ。 *村上ひさし
左から、オリヴィア・ロドリゴの2021年作『SOUR』(Geffen)、オリヴィアが参加した2023年のサントラ『The Hunger Games: The Ballad Of Songbirds & Snakes』(Interscope)
ブリーダーズの93年作の30周年記念盤『Last Splash (30th Anniversary Original Analog Edition)』(4AD)