FLO
注目トリオのアルバム・デビューと併せて振り返る2024年のR&B模様
現在、ガール・グループといえばK-Popのイメージが強い。だが、かつての大きな市場はソウルやR&Bで、その世界を華やかに彩りながらポップスのシーンにも進出していった。古くは60年代のシュープリームス、90年代のTLCやSWVなどが知られるが、近年R&Bの世界では減少傾向にあったガール・グループのスタイルやレガシーを継承しようと意気込むのが、英ロンドンを拠点に活動するフローだ。2022年に“Cardboard Box”でデビュー。シングルやEPで人気を集め、このたび初フル・アルバム『Access All Areas』を発表した。
結成は2019年。ロンドンの名門校シルヴィア・ヤング・シアター・スクールで知り合ったステラ・クアレスマとレネー・ダウナーが、SNSで歌唱動画を披露していたジョルジャ・ダグラスに声を掛け、3人で活動をスタート。2年後にはUKの奇才MNEKのもとでレコーディングを始め、アイランドと契約している。“Cardboard Box”がヒットした彼女たちは、ブリット・アワードの新人部門〈ライジング・スター賞〉を受賞、BBCが注目の新人を選ぶ〈Sound Of 2023〉の1位にも輝き、ガール・グループ復権を印象づけた。
3人は20代前半だが、親の影響もあってR&B、特に90年代から2000年代前半のR&Bに愛着があり、それを懐かしさ込みで現代的に解釈した曲を歌っている。Y2Kリヴァイヴァルの旗手とも目され、アートワークやMVも含めて往時の感覚を呼び戻しながら、それを新しいものとして共有するZ世代らしい発想で老若男女のハートを掴んでいるのだ。ミッシー・エリオットの“Work It”をサンプリングしてミッシー本人も招いた2023年のシングル“Fly Girl”も狙いすましたY2K風のクラブ・バンガーだった。が、サウンドだけではない。“Cardboard Box”に代表されるようにフローは若い黒人女性に自立を促すようなメッセージを曲に込めており、その点でも頼りない男性を批判する曲が続いたY2K期のR&Bとシンクロする。何しろ初来日公演となった2023年の〈サマソニ〉ではデスティニーズ・チャイルドの“Independent Woman”を歌っていた彼女たちなのだ。
ガール・グループ復権の意気込みは、アルバム『Access All Areas』の冒頭でも明示される。英国の俳優シンシア・エリヴォのナレーションで「デスティニーズ・チャイルド、シュガーベイブス、SWVらのバトンを受け取る準備ができていたトリオ」と謳われるが、それこそがフローのコンセプト。第1弾シングルの“Walk Like This”、ポップ・ワンゼルやジェイ・ヴェルサーチらの制作でジョー・パス版“Night And Day“をサンプリングした“Caught Up”などは、まさにシェイクスピアが手掛けていた頃のデスティニーズ・チャイルドをレミニスさせるし、“Shoulda Woulda Coulda”を聴いてティンバランドとアリーヤの蜜月を思い出す人も多いだろう。一方で、“How Does It Feel?”や“IWH2BMX”といったトラップ以降のスタイルを纏った曲を歌うあたりは現代のグループならではと言える。
アルバムのメイン・プロデューサーは彼女たちをデビュー時から支えてきたMNEKで、国境を越えて多数のクリエイターと共同制作をしている。ティーナ・マリー“Portuguese Love”を下敷きにしてセヴン・ストリーターがペンを交えた“AAA”ではポップ・ワンゼル、ムーディーなスロウ“Soft”ではキャンパーなどUS R&B最前線のヒットメイカーも参加。イギリスを拠点にしながらアメリカの名匠たちとコラボしている点では、マヘリアやティアナ・メイジャー9、ネイオ、ジャズ・カリスなどの近年作にも通じている。が、MNEKを含めて本作に集ったプロデューサーは、出身国や活動拠点の特性を作品に反映させるというよりは、世界で多くの人に共有されているサウンドを器用に充てがうことのできる才人たち。そんな面々がフローを懐かしくも進歩的なグループとして輝かせているのだ。
“In My Bag”もメロディーこそ懐かしい雰囲気だが、グロリラがラップを交える後半ではジャージークラブのビートが登場。また、シリータ“I Too Am Wanting”使いの“Check”はアトランタ・ベース〜2ステップ調でメロウに滑走。後者はティナーシェの“Getting No Sleep”にも通じているが、UKガール・グループの先輩とも言えるミスティークを彷彿させながらNewJeansなどとの同時代性を感じさせるあたりがY2Kと現代を行き交うフローらしい。そして何より、フローという名前が〈flow(歌い回し)〉を連想させる彼女たちは、リフズ&ランズ(=フェイク)を効かせたヴォーカルと鮮美なハーモニーが最大の魅力。“On & On”や“Bending My Rules”といったミッド・スロウでは、その巧みで美しい歌唱が際立つ。
グループの方向性はデビュー時から一貫している。だが、今回のアルバムは2023年以前のシングルやEPの曲は入れず、2024年以降の曲に限定して、いまの空気感で統一したという印象だ。拡大版の『Access All Areas: Unlocked』には、3人を自曲(“8”のリミックス)に招いたケラーニのほか、クロイー&ハリー、ディクソン、ブリー・ランウェイが客演したリミックスなどを追加し、彼らと共に現代のシーンを歩む同志であることも強調される。R&Bの軸を見失うことなく全方位にアクセスする姿が頼もしい。
関連作品を一部紹介。
左から、MNEKの2018年作『Language』(Virgin)、2025年1月17日にLPがリリースされるグロリラの2024年作『Glorious』(Interscope)