タワーレコード限定のコンピレーションアルバム『Tender Love - MELLOW R&B ESSENTIALS』が、好評を博している。90年代のメロウなスロウジャムをセレクトした本作は、美しいメロディーと甘いボーカルが織りなす名ラブソングばかりが収録された2枚組。最新マスタリング音源で、歌詞と音楽ジャーナリスト・林剛による解説も付属したこのアルバムは、〈あの時代〉の空気を捉えつつタイムレスな魅力に溢れている。そんな『Tender Love』を、R&Bを中心にした執筆活動で知られる音楽ライターの川口真紀に解説してもらった。 *Mikiki編集部

VARIOUS ARTISTS 『Tender Love - MELLOW R&B ESSENTIALS』 ソニー(2023)

 

ベイビーフェイス全盛期のスロウジャム

80年代のアーバンでメロウな楽曲をコンパイルしたタワーレコード発の人気コンピレーションシリーズ『Midnight Love』。これまで第4弾までリリースされている同作のスピンオフ企画となるのが、本作『Tender Love - MELLOW R&B ESSENTIAL』だ。『Tender Love』……ボーイズIIメンのレーベル〈ストーン・クリーク〉からデビューした男性シンガー、アンクル・サムによる同名曲が本作に収録されており(オリジナルはフォースMDズ)、このタイトルはそこから取ったのであろうが、しかしそれ以上にベイビーフェイスのセカンドアルバム『Tender Lover』(89年)を想起させるタイトルでもある。なぜなら収録曲全32曲中12曲、約3分の1がベイビーフェイス関連曲であり、まさにベイビーフェイスは本作のキーパーソンであるから。

ベイビーフェイスといえば、グラミー賞受賞数12回を誇るR&B界屈指のレジェンドプロデューサーであり、2023年のヒットシングルSZA“Snooze”を手掛けるなど、未だ現役バリバリのスーパープロデューサー。10代の頃に所属していたグループ、マンチャイルド時代から含めると実に50年近いキャリアにおいて常にシーンのトップに居続けている彼が、とりわけヒットを連発していた大全盛期が90年代であり、本作はそんな彼が手掛けた90年代スロウジャムが中心の作品となっている。

 

時代の空気を纏った男性シンガーのソウルフルな歌

Disc 1に男性シンガー、Disc 2に女性シンガーの楽曲が収録された本作。Disc 1の1曲目からして、ベイビーフェイスのソロデビューアルバム(86年)のタイトルトラック“Lovers”のリミックス(91年のリミックスアルバム『A Closer Look』収録)という一筋縄ではいかない選曲で驚かされるが(なお、選曲はDJ ICE)、楽曲全体を包み込むマイルドな心地好さはオリジナルと変わらず。よりエッジーで90s R&Bらしい仕上がりとなっている。

その他、全米チャート14週連続1位を記録したモンスターヒット曲、ボーイズIIメン“I’ll Make Love To You”、ミッドナイトスターのカバーを若きアッシャーとモニカが歌った“Slow Jam”などベイビーフェイス関与曲から、ドネル・ジョーンズ“Knocks Me Off My Feet”(スティーヴィー・ワンダーのカバー)、タイリース“Sweet Lady”といった90年代の名曲をズラリ収録。アズ・イェットやア・フュー・グッド・メンといった90年代の忘れ難き男性グループの楽曲収録も嬉しい限りだ。

美しいメロディーの中にもヒップホップソウル全盛の当時の空気が纏っていたりして、その時代のフィーリングにもグッときてしまう。そんな空気感に浸りながら各男性シンガーのソウルフルな歌声を堪能していただきたい。