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サンダーキャットら新世代からのリスペクト

それと、忘れてはならないのが、この時期にそういうニッチな動きとは別のフィールドでもフュージョン自体が〈アリ〉になっていったというのが大きかったと思います。例えば、日本でいうところのAOR(これもまたフュージョンと隣接したジャンルです)が〈ヨットロック〉という呼び名で米本国を中心に再評価を受けたり、往年のフュージョンからの影響を公言してはばからない新世代アーティストが登場したりしてきたのです。そうです、あのサンダーキャットも、フュージョンを蘇らせた立役者ですね。彼は、同じベーシストで元カシオペアの櫻井哲夫をはじめ、同じく元カシオペアの神保彰、笠井紀美子らをフェイバリットミュージシャンに挙げています。

もちろん、そうしたメインストリーム寄りの華々しい動きの傍らで、引き続き各地のDJのみなさんがレコードを堀り、様々なレーベルが地道にリイシューを重ねてきたというのも忘れてはなりません。他にも、例えば日本産のスピリチュアルジャズ的なレコードだったり、ジャズファンク的なもの、あるいはフリージャズ的なものなど、いわゆる〈和ジャズ〉と呼ばれるレコードがかねてより海外の音楽ファンから注目を集めていますが、そういう周辺ジャンルのディガー文化の長い蓄積が今のJフュージョン人気の下地にあるのは間違いありません。

 

今再び新鮮に楽しめる超ポップな音楽

その上で、現在のネット上での人気ぶりをみてみると、なにか感慨深いものがこみ上げてきます。たぶん、YouTube動画を通じてJフュージョンに親しんでいる多くの人はそういう文脈のことはほとんど知らないはずなのですが、かつてのディガー達と同じように一様に心奪われ、胸踊らせているのが伝わってきます。 彼らの書き込んでいるコメントを読むと、例えば高中正義の『ALL OF ME』のスカイダイビングジャケットに驚きながらも興味を引かれていることや、菊池ひみこ『Flying Beagle』のジャケに写るビーグル犬の可愛さに夢中になっている様が垣間見えます。このあたりの〈ライト〉さこそが面白いと思いますし、逆にいえば、サウンドもアートワークも、Jフュージョンのレコードって超ポップなんですよね。まさに、時を超える親しみやすさ、クールさ、楽しさを湛えた音楽といえるでしょう。

あらためて、こんなにもダイナミックな評価の変遷をたどってきた音楽は珍しいんじゃないかと思います。もしかすると、日本のフュージョンというのは、私達にとって身近過ぎる存在でありつづけてきたがゆえに、〈イケてる〉音楽ファンや音楽ジャーナリズムからはつい見落とされがちになってしまっていたのかもしれません。だからこそ、〈昔は苦手だった〉という人ほど、今再び新鮮な感動とともに楽しめるんじゃないでしょうか(他ならぬ私がそうだったように!)。