世界が驚いた〈令和GEKIGA〉を体感せよ!
昨年、マンガ読みの間で話題をかっさらった「龍子 RYUKO」。自らが信じる〈義〉のためにヤクザの組長である父親を殺害した龍子が、死んだはずの母親を探して、日本、中近東、ソ連など、世界を股にかけた裏社会の闘争に身を投じてゆく。マフィア、軍人、売人、ジャンプスーツに身を包んだセクシーな女たち、拳銃、バイク、刺青、ビンテージカー。そんな陳腐すれすれのハードボイルドな世界観を、殴りつけるような筆致と疾走感あふれる展開でグイグイ読ませる。
敵を追ってハマの歓楽街をバイクでぶっ飛ばし、そのまま地下鉄の車内まで乗り込む。破天荒なアクションも痺れるが、雪の降りしきる鎌倉の山寺で龍子が母親と対峙するシーンの乾いた詩情もたまらない。
作者のエルド吉水は東京藝術大学彫刻専攻を修了し、長らく現代アートの世界で活躍。2010年に突如45歳で劇画家として活動を開始した異色の作家。独特のグラフィカルな表現や、そのまま映像化できそうなクールなコマ割りと構図は、なるほどマンガというより、アートの素養を感じさせる。「龍子 RYUKO」はまずヨーロッパで評判を呼び、逆輸入的に日本で出版された。近年、海外で上村一夫や辰巳ヨシヒロといった日本の60-70年代の〈GEKIGA(劇画)〉が、かつての浮世絵のようにアートとして評価されていることを思えば、「龍子 RYUKO」は突然変異のようで生まれるべくして生まれた作品なのかもしれない。
現在では多くのマンガ家がデジタルに移行しているが、本作はすべて紙とペンによる手描き。フィジカルならではの熱量をもった画をページをめくって読むという行為は、ガレージバンドの生演奏を爆音で浴びるのと同じ、臨場感とカタルシスがある。本牧埠頭、都橋商店街、ホテルニューグランドといった固有名詞にワクワクする人は問答無用で読むべし。3巻ではさらに壮大なスケールの展開が期待できそうだ。