こんな手があったのか! 鮮やかで唯一無二の原曲解釈
そして今回の『vol. 8』に収められたのは、別項にある10曲。相変わらずバラエティに富んでいるし、70~80年代に人格を形成した者であればそれなりの思い入れと共に、以降に生まれた世代にとっては〈昔の曲だっていいものはいいんだな〉的な気持ちで、つまり幅広い世代が楽しげに耳を傾けるであろうことがごく自然に想像できる。
オープニングが“うる星やつらのテーマ(ラムのラブソング)”というのも実にキャッチーではないか。最近では上坂すみれ(サンダーキャットがファンであることでも知られる異才)のカバーバージョンが出色だったが、それはラム(CV:上坂すみれ)があの声であの歌詞を歌っているというところに要因があったはずだ。H ZETTRIOはもちろんインストゥルメンタルバンドなので、この時点で歌詞や歌声の妙味は消える。かわって横溢するのが切れ味の良い各楽器の多彩な音色と鮮烈なアレンジ、実にいい感じで取り込まれた変奏(ニアリーイコール、インプロビゼーション)である。5分間の番組のためのパフォーマンスであるから、プレイぶりは手際よく、演奏時間もコンパクト。鮮やかに痕跡を残して、スッと立ち去る。そんな演奏が次から次へと飛び出すのが、「SPEED MUSIC ソクドノオンガク」シリーズの共通点だ。
が、〈これをどうインスト化するだろう?〉と、聴く前の私の頭の中に疑問符を浮かばせてくれたナンバーもある。ずばり、“関白宣言”だ。
作者のさだまさしは、実のところメロディメイカーでもあるのだが、この曲に関しては、とにかく詞を届けることが第一義というか、〈弱い男の強がり〉みたいなものを、1980年当時の彼が、ひょろっとした高音で綴るところに妙味があった。いわゆるメインコーラスの部分は語りに寄せた歌いっぷりで、サビの部分もドラマティックに高揚することがない。ひととおり歌い終わったあとに〈ララララ〜〉と、後年の“北の国から〜遥かなる大地より〜”の〈ア〜ア〜〉にもどこか通じるスキャットパートへと突入するのだが、H ZETTRIOはこの箇所を曲の前半寄りの部分に持ち込んで、実に起伏に富むインスト曲として再生している。こんな手法があったのか、あったのだ!
バンドが演奏していた楽曲の中には、〈イントロのフレーズも含めて、その歌〉といいたくなるようなところもある。イントロ一体型の楽曲と言えばいいだろうか。『vol. 8』でいえば、シュガー・ベイブの“DOWN TOWN”、もんた&ブラザーズの“ダンシング・オールナイト”がそうだ。こうしたタイプのナンバーに、H ZETTRIOがどうメスを入れ、自分たちのサウンドに衣替えしているのかも、当アルバムの楽しみどころであると断言したい。
クリアにアコースティックピアノを響かせるかと思えば、歪み系のキーボードの音色でアグレッシブに迫ることもあるH ZETT M、鳴り物をたっぷり含むドラムセットで祭囃子のようなビートを放つH ZETT KOU、アコースティックベースひとつで頼もしさいっぱいにボトムを支えるH ZETT NIRE。ワン&オンリーの輝きは、強度を増すばかりだ。
RELEASE INFORMATION

リリース日:2024年5月22日(水)
品番:FBAC-211
価格:2,200円(税込)
TRACK LIST
1. うる星やつらのテーマ(ラムのラブソング)
2. 想い出がいっぱい
3. およげ!たいやきくん
4. 風になりたい
5. 関白宣言
6. 北酒場
7. DOWN TOWN
8. ダンシング・オールナイト
9. LA・LA・LA LOVE SONG
10. レイニーブルー