インタビュー

藤倉大&笹久保伸 『Manayachana』

世界音楽への新たなアプローチ

藤倉大 (C)Milena Mihaylova

 

 旺盛な創作意欲が昨年から一段と凄まじくなってきた異能のギタリスト笹久保伸。この夏には連続4枚もの新作がリリースされ、彼の通算アルバムは計22枚となった。7月に出た『Ruidos De Hinoda』は、笹久保と同じ秩父出身の世界的電子音楽家・浅野浩司が昨年の『アヤクーチョの雨』のアウトテイク音源などを電子加工したコラボ作品。8月には、故・粟津潔の未発表写真及び幻想劇画「すてたろう」を元にしたCDブック『すてたろう』と、地元秩父の民謡を独自のアレンジで自ら弾き語りした『秩父遥拝』の2枚。そして9月に出た22作目が、ロンドンを拠点に活躍する現代音楽作曲家・藤倉大とのコラボ作『マナヤチャナ』。藤倉は現代音楽系の作曲家でありながら、同時に、デイヴィッド・シルヴィアン坂本龍一などともコラボレイションするなど、ロックやテクノなどのコア・リスナーからも熱い注目を浴びている才人だ。

笹久保伸,藤倉大 Manayachana Sony Classical(2014)

  今回のコラボのきっかけは、なんとフェイスブック。「チャットで色々話しているうちに、一緒に何かやろうかという話になった」(笹久保)のだという。藤倉は、笹久保の音楽を聴いたことはなかったが「生活費を削りながらレーベル運営もやっている彼は、自分と似てるなと思った。録音物を作るという大変さがお互いわかっているという共通点は、僕にとっては大きかった」と、笹久保の音楽家としての姿勢、活動スタンスに強く共鳴したこともコラボの動機に挙げる。

笹久保伸 (C)ホンマタカシ

 

 制作は、秩父とロンドンで、データのやり取りのみでおこなわれた。「笹久保さんが録音した断片的な即興演奏の中から、僕が一音一音切り取り、それを電子加工したり、音程を変えたりして、ひとつづつ積み上げてゆく。ある程度できた時点で彼に送り、それをバックに更にギターの即興を乗せてもらう。その音声データを再び僕が解体し、作り直して…という作業の連続。だから僕の作業は、いわゆるリミックスとは全然違う。本当の意味での共同作曲だった」(藤倉)

【参考動画】笹久保伸&藤倉大『Manayachana』収録曲“マナヤチャナ”
インタヴュー後日に行われたパフォーマンスの映像

 

 二人は未だ、実際に会ったことがないし、電話で話したこともないという。「でも、共同作業は実にスムーズだった。他の誰かから意見を受けたり、方向性を指示されたりすることもなければ、妥協もない。僕は笹久保さんのピュアさに共感したんだと思う」(藤倉)

【参考動画】笹久保伸&藤倉大『Manayachana』収録曲“ルミ”
インタヴュー後日に行われたパフォーマンスの映像

 

 『マナヤチャナ』はアンデス民謡でもなければ、現代音楽でもない。単身アンデスの山奥に分け入ってフォルクローレの神髄を究めつつ、日本人である自分にしか作れない音楽を探求し続けてきた笹久保と、“現代音楽”ではなくて“現代の音楽”に挑み続けてきた藤倉の邂逅によって生まれた、まったく新しい世界なのだ。二人の出会いは、運命だったのだと思う。

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