(C)Seiji Okumiya

「前にも増して、自然に作曲できるようになりました」

 ロンドンを本拠とする作曲家、藤倉大は今年4月27日で40歳になった。「20代より30代後半の方がもっと楽しんで、あれこれ気にせず書けるようになった。前にも増して、自然に作曲できる」と、不惑の抱負を語る。

藤倉大 チャンス・モンスーン Sony Records International(2017)

 インタヴューに先立って藤倉自身の〈ミナベル〉レーベルとソニーミュージックのコラボレーション第3作、『チャンス・モンスーン』を試聴した。「数多くの異なる楽器のために書きながら、全体の流れが一貫し、藤倉さんの《内なる日本》がよりはっきり、聴こえる」と感想を伝えたら、上記の答えが返ってきた。

 ちょうど前夜、諏訪内晶子(ヴァイオリン)が主宰する「国際音楽祭NIPPON」の委嘱作《Pitter-Patter~ヴァイオリンとピアノのための》の世界初演を終えたタイミング。ピアノは諏訪内と同じチャイコフスキー国際音楽コンクールの覇者、ボリス・ベレゾフスキーだった。「ピアノ・パートは易しいが、ところどころ、ヴァイオリンと合わせるのに至難の箇所が仕掛けてある」という譜面をベレゾフスキーは滞日中、肌身離さず持ち歩き、練習し続けた。「ふだん現代音楽のスペシャリストとの仕事が多い自分にとっても、古典派~ロマン派をレパートリーの中心に置くピアニストに接するのはレアな機会。初演本番では大ピアニストのオーラ、信じられないくらい美しい弱音に魅了されている自分がいた」。どこまでも感動を素直に語り、創作の糧とするのが藤倉の良さだ。

 ソニーとのコラボレーションは「アルバム1枚分の新作が集まったら、次を出す」のが原則だから、藤倉大の創作の軌跡をリアルタイムで定点観測する効用を併せ持つ。今回の『チャンス・モンスーン』も村治奏一(ギター)、太鼓芸能集団「紬衣」、ジェイコブ・グリーンバーグ(ピアノ)、本條秀慈郎(三味線)、アントニ・ヴィット指揮名古屋フィルハーモニー交響楽団、アリス・テシエ(ソプラノ)、カティンカ・クライン(チェロ)ら、様々なジャンルの音楽家との出会いから生まれた近作で構成したが、CDのために1から録り直した音源ではない。演奏家本人が自主制作したり、オーケストラが記録用に残していたり…。あるいは本條の三味線のように藤倉と「たまたまニューヨークで遭遇したその足で、スタジオに出向いて収録した」という音源も含まれている。

 前作はソニーの杉田元一と二人三脚のマスタリングだったが、新作は杉田のアドバイスを受けながら藤倉一人で仕上げ、雑多な音源に統一感を与えることにも成功した。

 


LIVE INFORMATION

《Glorious Clouds》~オーケストラのための
 (名古屋フィルハーモニー交響楽団 / WDR交響楽団 / イル・ド・フランス管弦楽団共同委嘱作品)

○9/8(金)名古屋 / 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール ※世界初演
○9/9(土)名古屋 / 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
出演: マーティン・ブラビンズ(指揮)/名古屋フィルハーモニー交響楽団/コントラバス協奏曲
○11/23(木・祝)東京 / オペラシティ・コンサートホール ※日本初演
出演: 佐藤洋嗣(cb)/佐藤紀雄(指揮)/アンサンブル・ノマド

ピアノ協奏曲第2番《Diamond Dust》
○12/22(金)東京 / オペラシティ・コンサートホール ※日本初演
出演: メイ・イ・フー(p)/佐藤紀雄(指揮)/アンサンブル・ノマド