音の世界に“居場所”をみつけた破格のコスモポリタン、藤倉大の早すぎる自伝
国家や文化圏、音楽ジャンル……あらゆるボーダー(境界)を超えて泳ぎ続ける作曲家、藤倉大の自伝的エッセーが「あの」幻冬舎から出た。1977年4月生まれの44歳、「早すぎる自伝」と思う人がいておかしくない。だが、ざっと40年間の歩みだけで450頁近くを費やせるほどに波瀾万丈、大胆不敵、良い意味で唯我独尊の個性とクリエイティヴィティーに溢れ、摩訶不思議な説得力に富んだ語りくちには誰もが魅了されるはずだ。
「序章 最初から作曲家だった」の書き出しから8行目でもう、私の目は点になった。お母さんは「1人っ子だと引っ込み思案になる」と考え、大少年を3歳の時、児童劇団に入れた。続く文で藤倉は「だが、人前に立ちたがる僕の知り合いの多くが、1人っ子ばかりなのを見ると、これは昭和の間違った認識だと思う」とバッサリ。最初に取材した瞬間で波長の合った背景は昭和の「1人っ子」メンタリティーの共有であったか!
ハキハキと意見を述べ目標を次々に達成、新たな世界を切り開くミッションを授かったクリエーターに対し、日本が“狭すぎる”のは自明の理。本書では15歳で英国に渡り、音楽の才能を武器に次々と人脈を広げ、世界に独自のネットワークを広げていくプロセスを「大さん」の分身のような感覚で、追体験できる。演奏家や指揮者、リブレッティスト(台本作家)、マネジャーら創作現場の同僚先輩だけでなく、坂本龍一やデイヴィッド・シルヴィアンといった「生きる伝説」との出会いすら、必然だったと思わせる。
読んですぐ、大さんに感想を送信した。すぐ返信する「せっかち」も同じ。「何故か色んなことが、ほとんどのプロジェクトで起きるというのはあるので、もう少し普通に予定通り進むものがあっても時にはいいかな、とは思います」と打ってきたけど、いえいえ、想定外の連続こそ藤倉大の真骨頂だから、あきらめてください。続編に期待!