Page 2 / 2 1ページ目から読む

 加藤和彦と北山修のデュオで発表された“あの素晴しい愛をもう一度”を本作のテーマ曲に選んだのは、サウンド・プロデュースを担当し、映画の監修も務めている牧村憲一。

 「牧村さんが強くおっしゃっていたのは、過去の映像と証言だけで幕を閉じていくのではなく、加藤さんの歌を未来につないでいく映画にしたいんだってこと。レコーディングに若い世代を呼びたいっていうのも牧村さんの要望でした。sorayaを紹介してくれたのは彼で、YouTubeで大貫妙子さんの曲をスタジオ・ライヴでカヴァーしている映像を発見したらしく、この曲をやるとは!って引っかかったみたい。たしかに紅奈ちゃんがベースを弾きながら唄う姿は映像的にすごくインパクトがある」(高野)

 坂崎幸之助、きたやまおさむ、高田漣、坂本美雨、そしてクラウド・ファンディングという形で関わった大勢のコーラス隊から成るTeam Tonoban。10代から70代まで幅広い世代の方々が結束して生み出したハーモニーは実に彩り豊かで、うんと遠くまで飛んでいきそうな明るく澄んだ響きを持っている。

 「これまで自分がレコーディングしたなかでいちばん参加人数が多いんじゃないかな。素晴らしい。こんなプロジェクトってなかなかない。エンディングに差し掛かって、映画の流れのなかに置かれたこの曲に改めて向き合ったときは、思わず、おぉっとなったというか、ちょっとウルっときましたよ」(高野)

 一方、石川はレコーディング中に多くの発見があったと語る。

 「“あの素晴しい愛をもう一度”って、一度聴いただけで歌えるようなシンプルなメロディですけど、いざレコーディングとなって聴き返してみたら、いままで気付かなかった味わい深さをすごく感じました。原曲の曲調はカントリーふうですが、そのイメージを持ったままレコーディングしてみたところ、ちょっとうまくハマらなかったんですよ。そしたら高野さんから、サンバのリズムでやってみようよ、と提案がありまして。大丈夫かな?と思いつつ弾いてみたら、音楽が確実に進んでいった感覚が得られたんです」(石川)

 「サンバってジャズと親和性が高くて、ジャズ・サンバっていうジャンルもあるぐらい。紅奈ちゃんはジャズ・プレイヤーだし、きっとその一言で理解してもらえるって思った。サンバの解釈のほうがよりグルーヴが生まれる気がしたし、イマっぽさも出るんじゃないかと。けっして奇を衒うことなく、原曲の良さを活かしながら現代の音楽として響かせたい。それは牧村さんもすごくおっしゃっていたこと。紅奈ちゃんがベースをやってくれたことで、本当にフレッシュな楽曲になったと思います」(高野)

 「ミュージシャンが集まって音楽を作っていくという作品作りの基本的な楽しさを味わえたんです。でもそれって曲の構造がシンプルで、さまざまな考えを反映できる余白がたくさんあるから可能だったんじゃないかと思います。いろんな世代の人がみんなで歌い継いでいけるのはこういう曲なんじゃないかなって思ったし、“あの素晴しい愛をもう一度”をもう一度改めてイイ曲だなと噛みしめるイイ機会になりました、ハイ」(石川)

 始めから終わりまでとめどなく予測不能な展開を繰り返し、われわれをいつも驚かせ、魅了し続けたトノバンの華麗な冒険に、真摯に向き合おうとした「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」。この映画からいったい何を受け取るのかについては人それぞれだと思うが、トークの途中で石川が口にした「映画を観ながら、加藤和彦さんのなかで変わっていったものと、変わらないものを感じ取ることができた」という発言に関してはたぶん多くの人の意見が一致するところだろうと思う。とにかく、あの素晴らしい加藤和彦の音楽にもう一度出会える幸せをぜひあなたとも共有したい。

 


MOVIE INFORMATION
映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」

企画・構成・監督・プロデュース:相原裕美
出演:きたやまおさむ/松山猛/朝妻一郎/新田和長/つのだ☆ひろ/小原礼/今井裕/高中正義/クリス・トーマス/泉谷しげる/坂崎幸之助/重実博/コシノジュンコ/三國清三/門上武司/高野寛/高田漣/坂本美雨/石川紅奈(soraya) ほか ARCHIVE:高橋幸宏/吉田拓郎/松任谷正隆/坂本龍一 ほか(順不同)
配給・宣伝:NAKACHIKA PICTURES
(2024年|日本|118分)
©2024「トノバン」製作委員会
2024年5月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
https://tonoban-movie.jp/